2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of Visible-Light Driven SET and HAT Dual Role Catalyst and Reaction System
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20K15287
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
内倉 達裕 学習院大学, 理学部, 助教 (50867869)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | EDA錯体 / 水素原子移動 / 光電子移動 / ラジカルクロスカップリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、フェノールを触媒として用い、Electron Donor-Acceptor (EDA)錯体を触媒として用いた、可視光駆動型の一電子移動(SET)および水素原子移動(HAT)を組み合わせた反応系の開発を目的としている。フェノールを水素原子移動触媒として用いることは困難であったが、アリールハライドから、フェノールとの一電子移動により生じるアリールラジカルを利用することによって、EDA錯体を経由する一電子移動 (EDA-SET)とHATを組み合わせた光反応系を見出すことに成功している。 一方で、フェノールの酸素が、同族元素である硫黄に置き換わったベンゼンチオールを用いた時に、EDA-SETにより生じたチイルラジカルとアルキルラジカルが反応したスルフィドが生じることも見出した。すなわち、THFおよびベンゼンチオールに対し、アリールハライドとしてp-ブロモアセトフェノンを用い、炭酸セシウムの存在下450 nmの可視光を照射することによって、THFとチオールがカップリングしたスルフィドが得られることを見出した。本反応は、シクロヘキサンなどの単純アルカンとも反応することがわかっている。種々の反応機構解析の結果、本反応はアリールハライドとチオラートから生じるEDA錯体を経由しており、結果として生じたアリールラジカルによってTHFの水素がラジカル的に引き抜かれることがわかった。このようなEDA-SETとHATを組み合わせた光反応系はこれまでに報告がないため、様々な反応系への応用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記に示したように、フェノール触媒とアリールハライドのEDA錯体から生じるアリールラジカルを利用することによって、EDA錯体を経由する一電子移動 (EDA-SET)とHATを組み合わせた光反応系を見出すことに成功している。 しかし当初の目的であった、フェノールを水素原子移動触媒として用いることは、フェノキシラジカルの安定性の高さから困難であったため、現在のところ達成できていない。 一方で、当初は想定していなかった、ベンゼンチオールを用いた炭素-硫黄結合反応を見出すことに成功した。本反応は幅広いアリールチオールに対して適用可能であり、ベンジルメルカプタンを用いた場合にも反応が進行することがわかっている。また、アルカンについても、シクロヘキサン等の単純アルカンとも反応し、エーテル、アミド、スルフィドのヘテロ原子のα位の炭素-水素結合に対してスルフェニル化を行うことに成功している。また、反応機構解析から、本反応はアリールハライドとチオラート間でEDA錯体を形成していることがわかり、対応する波長の可視光照射によるEDA-SETを経由していることがわかった。さらに、重水素標識実験から、生じたアリールラジカルが、アルカンの炭素-水素結合をラジカル的に切断することで反応が進行していることがわかった。本研究結果は、現在論文を投稿中である。 以上のように、当初の目的であった、フェノールを水素原子移動触媒として用いることは、フェノキシラジカルの安定性の高さから困難であったが、アリールハライドを共存させることによって、EDA-SETとHATを組み合わせた炭素-炭素結合反応へと利用することに成功し、さらにチオールを用いることによって、炭素-硫黄結合形成反応へと展開することにも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
フェノール触媒とアリールハライドを用いた、EDA-SETとHATを組み合わせた可視光駆動型炭素-炭素結合反応においては、基質適用範囲の拡大および反応機構解析を行った上で、論文を投稿する予定である。 しかし、フェノール触媒を用いた場合は、フェノキシラジカルとアルカンとの水素原子移動が進行せず、1つの触媒でSETとHATを連続的に起こすという課題については未だ達成できていない。これは、フェノキシラジカルの安定性が高いことによって、アルカンの炭素-水素結合をラジカル的に切断することが困難であるためである。 一方で、上記に示したチオールを用いた炭素-硫黄結合形成反応の基質一般性において、ベンジルメルカプタンを用いた場合にも反応が進行することがわかっている。すなわち、電子移動に関わるアニオン部位がベンジル位に存在する場合でも、電子移動が起こりうることを示唆する結果である。そこで、同様の構造を有するアルコールであるベンジルアルコールに着目している。ベンジルアルコールから生じるアルコキシラジカルはフェノキシラジカルと比べ反応性が高いため、アルカンとのHATが進行すると考えられる。したがって、ベンジルアルコールと電子不足アレーン間のEDA錯体からアルコキシラジカルが生じれば、反応性の高い酸素ラジカルによって容易にHATを起こすことができると考えられる。今後は、ベンジルアルコール誘導体を検討することで、EDA-SETとHATを連続的に行うことができる触媒系の開発を目指していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、4,5月の2ヶ月の間大学が閉鎖となり、研究を進めることができなかった。実質の稼働日数が予定よりも大幅に少なくなったことから、消耗品の需要が減少し、それに伴い次年度使用額が生じてしまった。 したがって本年度は、当初予定していたよりも多くの学生に協力してもらうことによって、昨年度遅れてしまった研究を進めていく予定である。
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