2020 Fiscal Year Research-status Report
キノリンを母骨格とした二核錯体合成とその触媒化学的応用
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20K15299
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新林 卓也 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90824938)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / キノリン配位子 / ホスフィン配位子 |
Outline of Annual Research Achievements |
中心金属を一つのみ有する単核錯体と比較すると,構築が困難であるが興味深い物性・反応性が期待される複核錯体,特に二核錯体を効率良く形成するための配位子としてキノリンを母骨格とした配位点を3つもしくは4つ有する配位子の合成を試みた.キノリンの8位に配位性置換基,とりわけホスフィノ基を有する配位子を設計するとP,N-キレート配位により効率良く五員環メタラサイクルを形成でき,さらにキノリンの2位に同様に配位性置換基を導入することで二つ目の金属中心を取り込み二核錯体を形成できると期待した.具体的には2,8-ジブロモキノリンを既報に従い合成し,2,8位の官能基化を検討したところ,リチオ化は8位優先的に,パラジウム触媒によるカップリングは2位優先的に進行することが明らかになり,これらを組み合わせることで,3つの配位点を有するPNP配位子およびPNS配位子,キノリンの2位に6-ホスフィノピリジル基を有する,配位点を4つ持つPNNP配位子の合成に成功した. 3つの配位点を持つPNPおよびPNS配位子と種々の金属錯体前駆体との錯形成反応を検討した.Cp*ロジウム錯体との反応ではP単座配位およびPN二座配位錯体の形成が確認された.金属に配位していないホスフィンまたはスルフィド部位に対する別種の金属錯体との反応による二核錯体形成については検討中である.ルテニウム錯体との反応では,強固に配位したPNキレート錯体が生成し,キノリンの2位のホスフィンまたはスルフィド配位部位はルテニウム中心と弱く結合した錯体が生じることを確認した.X線結晶構造解析により,この弱い結合部は結合長が長く,また,PCN結合角に有意な歪みが見られ,興味深い構造であると考えている.二種類目の金属中心の導入については検討中である.また,PNNP配位子の反応についても検討予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
設計した配位子の合成に関しては知見が十分に集まりつつあり,順調に進んでいる.特に種々の配位子合成の共通中間体となるマルチブロモキノリンの有機金属試薬や遷移金属錯体との基本的な反応性に関する知見が得られているので,配位子合成を今後効率良く進めることが可能になると期待される.また,合成されたPNP三座配位子の錯形成反応については,予想通り8-ホスフィノキノリンとしての安定な五員環メタラサイクルを形成する傾向を確かめることができており,もう一つの2-ホスフィノ部位での錯形成を検討している.しかしながら,想定ではPNP三座キレートのピンサー型配位形式は取りにくいとしていたもののルテニウム錯体での反応により,歪みが生じながらもピンサー型錯体を与えることが判明したため,少し設計に改良が必要であると考えている.この知見を反映させた配位子設計としてPNNP配位子の合成を検討し,最近合成に成功した.本PNNP配位子では,計算化学による予想ではPNN三座ピンサー構造を安定に取ることが可能であると同時に,一つの金属中心へのPNNP四座配位は構造的に歪みが極めて大きくなるため困難になり,フリーのホスフィノ基が確実に生じる.これを利用した錯形成反応について詳細を調べる予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
二核錯体を形成するための配位子プラットフォームとしてのキノリン含有PNPおよびPNNP配位子の合成については目処が立っており,今後は種々の金属錯体との錯形成反応を中心に実験的検討を進める.錯体のNMR・X線構造解析などを中心に,反応性の調査を進める.また,酸化還元電位の測定など電気化学的な調査も検討する.特に,一電子酸化・還元の容易な第一遷移金属(Fe,Co,Ni等)と二電子酸化・還元の得意な第二,三遷移金属との組み合わせの二核錯体,あるいは第一,第二遷移金属同士の組み合わせの二核錯体の電気化学的キャラクタリゼーションにより,基礎的な反応性の変化・特徴を調べる. 検討の中で,二核錯体を形成せずに安定な単核錯体を生じた場合,例えば現在でもルテニウムのPNP三座配位錯体の生成が確認できている等,本来の研究課題としている「二核錯体の合成・反応への応用」とは外れるが,新規に設計した配位子・錯体形成であり,通常とは異なる結合長・結合角に基づいた興味深い反応性の探索可能性が期待されるため,錯体化学的に興味深い研究対象として物性調査を試みる.
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Causes of Carryover |
研究の進捗具合に応じて,当初購入予定としていた電気化学測定機器(予算80-90万)の購入を見送ったため,次年度使用額が生じた. 2021年度に当該機器の購入に費用を充てる予定である.また,実験に必要な各種試薬・器具類の購入に使用する.
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