2022 Fiscal Year Research-status Report
キノリンを母骨格とした二核錯体合成とその触媒化学的応用
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20K15299
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新林 卓也 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90824938)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / 二核錯体 / キノリン配位子 / ホスフィン配位子 / 白金 / ルテニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から引き続き,反応性に興味のもたれる二核錯体の効率的な合成を目的として,キノリンを母骨格とするPNP型のキレート配位子と様々な金属錯体との錯形成反応を検討した.既に明らかにした,カチオン性白金(II)錯体と2,8-ビスジフェニルホスフィノキノリンとの錯形成反応による,8位のリン原子とキノリンの窒素原子でキレート配位した白金の二核錯体の生成について,条件を検討し,反応温度および濃度を制御することで収率が向上することがわかった..二核白金錯体のDFT計算により,分子軌道を確認すると,二つの白金中心のdz2軌道に由来する最高被占軌道が存在し,求電子性反応剤との反応が期待されるため,種々の求電子反応剤との反応を検討したが,剛直な配位子骨格による速度論的な安定性,および全体としてジカチオン性錯体であることに由来する,電気的に陽性な求電子反応剤との反応性の低さのためか,効率的に別の錯体種へと変換することは困難であることが示唆された. 異なる中心金属として,金(I)を用いて生成した二核錯体について,アルキン等の不飽和有機化合物との反応を検討したが,効率的な触媒的分子変換の達成には至っていない.金錯体と銀塩との反応によるカチオン性錯体の生成は問題なく進行するため,適切な分子内反応を起こせるように設計した不飽和有機化合物の環化を伴う変換反応について検討を続ける予定である.ルテニウム(II)錯体の生成については,前年度に既に明らかにしており,これについて変換反応を検討したが,温和な条件下では特筆すべき変化が起こらず,錯体の安定性が高いことを示唆する結果が得られた.構造的特異性に重点を置いて,錯体の性質を調査していく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
PNP型キノリン含有配位子とルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金等多様な後周期遷移金属錯体との錯形成反応の検討を進め,ルテニウムや白金,金を用いる事で同定可能な錯体生成物を良好な収率で合成可能であることがわかった. 白金錯体の場合には,白金上の置換基によって二核錯体と単核錯体の選択的な合成が可能であり,反応温度および溶液の濃度が錯体生成の選択性を制御することがわかった.白金上の置換基を傘の小さなメチル基にすると,基本的に二核錯体が選択的に得られる.一方,傘の大きなトリメチルシリルメチル基の場合には,高濃度では,二核錯体と単核錯体の混合物を与え,低濃度では,高収率で単核錯体が生成することがわかった.白金錯体と求電子性反応剤との反応を検討したが,錯体の高安定性のためか,ほとんど反応が進行しないか,反応した場合は分解が進行し,同定困難な生成物を与えた.反応性の調査にこだわらず,構造的な興味を中心に物性を調べていく予定である. PNP型キノリン含有配位子を有する金錯体では,カチオン性錯体への誘導化に成功した.アルキンを中心とした不飽和有機化合物の求電子的活性化を目論み検討を進めているが,現在のところは有効な触媒反応系の構築には至っていない.適切な分子内反応を進行しやすい反応基質を用いて触媒反応性を探索すると良いと考えている. ルテニウムを中心金属とすると単核錯体を与えることがわかっており,キノリン構造に由来して歪みがかかっている事が構造解析によって明らかとなった.反応性の調査を進めているが,現在のところは良好な触媒性能は示していない.この錯体についても構造的特異性に重点を置いて,物性を調査する.
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Strategy for Future Research Activity |
設計したキノリン配位子が,白金や金,ルテニウムとの錯形成反応によって二核錯体および単核錯体を効率よく与える事を明らかにしてきており,これらの得られた新規錯体 を用いて不飽和炭化水素化合物の活性化を伴う触媒反応への展開を目的に,化学量論反応を検討する. 触媒反応への展開が可能であれば最善であるが,検討を進める過程で,安定性が高いために,目的反応の実現が困難であることも少しわかりつつあるため,触媒としての利用に拘らずに,錯体化学的興味に重点を置いて,錯体の生成機構,物性について調査・総括していく予定である.特に白金・ルテニウム錯体は配位子骨格の特異性に起因する特徴的な構造歪み・配位様式が見られているため,結合様式・安定性・酸化還元特性などに着目して,その性質を深く掘り下げる.金錯体については,不飽和有機化合物の反応剤の構造を選択することで面白い反応性を引き出す事ができると考えて検討を進める.
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Causes of Carryover |
研究の進捗に応じて,実験に必要な各種試薬・実験器具の購入費用が予定よりも少なかったため次年度使用額が生じた. 2023年度に,これら実験に必要な器具・試薬を購入するために用いる.
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