2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K15326
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Research Institution | Kurume National College of Technology |
Principal Investigator |
小袋 由貴 久留米工業高等専門学校, 材料システム工学科, 助教 (80804004)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鉄系複合酸化物 / 無機顔料 / 多核金属錯体 / 異種元素添加 / 近赤外線反射 / 第一原理計算 / L*a*b*表色系 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄(Fe)-クロム(Cr)系の複合酸化物は近赤外線反射用遮熱顔料として期待されているが、Crは人体や環境に悪影響を与えるため、Crフリーの顔料が求められている。顔料の近赤外線反射能を向上させるには、酸化物の発色性の制御と粒子径の整った顔料粒子の調製が必要である。同時に、酸化物の発色性能の向上に有効な添加元素の調査とその効果について明確にすることが重要である。本研究では、スピネル型構造を持つ鉄系複合酸化物に注目し、遮熱特性に優れた酸化物顔料の創製を行う。具体的には、(1)多核金属錯体の低温・短時間焼成による酸化物微粒子の合成,(2)近赤外線反射に適した酸化物粒子の形状特性の最適化,(3)異種元素の添加による形状特性制御と近赤外線反射性能の向上について研究を進める。 令和2年度は、Zn-Fe系スピネル酸化物に注目し、リンゴ酸錯体法で多核金属錯体を調製した。これを低温で熱分解後、空気中で焼成し、添加元素の種類や添加量,熱処理条件によって生成する酸化物の形状特性がどのように変化するかを調べた。Zn-Fe系スピネルでは、ランタノイド(LaやDy)を微量添加するとZn-Feスピネル粒子の結晶子成長が著しく抑制され、800 ℃焼成後の結晶子径が約 10 nm程度であることを見出した。TiやZrを添加しても、結晶子成長の抑制効果はランタノイドには及ばなかった。X線光電子分光測定から試料中のFeは+3価で存在することを確認した。紫外可視分光測定で光学的バンドギャップ(Eg)を見積り、5 mol%の異種元素添加によるEgの変化は約0.1 eVであることがわかった。色度測定から、LaまたはZrを添加するとZnFe2O4の黄色味がやや強くなることを確認した。さらに、Fe3+のスピン配列を考慮してZnFe2O4の第一原理計算を実施し、光学特性を支配する価電子帯-伝導帯間の電子構造を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、Zn-Fe系スピネル酸化物粉体を調製し、結晶構造解析,粒子形状観察,光吸収測定,元素分析,色度測定,理論計算を実施した。COVID-19感染拡大のため、学生との共同実験が容易でなく学外機関での実験も延期になった。しかしながら、試料調製,物性測定,理論計算を工夫し、次年度の準備も進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、引き続きZn-Fe系スピネル酸化物の試料粉体を調製し、マイクロ波加熱と熱処理条件について検討する。Feサイトに対して異種元素を添加したZn-Fe系スピネルについては、X線回折測定や走査型電子顕微鏡観察,X線光電子分光測定,色度座標測定を実施済みであり、引き続きZnサイトにおける異種元素の添加効果についても知見を得ていく。添加された異種元素の局所構造態を明らかにするため、新たに学内に導入されたRaman分光装置を用いて微視的領域の構造情報を得る。学外機関での実験が可能になり次第、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて原子レベルでの高分解能観察や元素分析,粒子径分布測定を実施する。 また遮熱特性について評価するため、酸化物試料の近赤外線反射スペクトル測定に加えて、調製した酸化物粉体と高分子ペーストを混合してガラス基板上に厚膜を作成し、近赤外線照射下において厚膜の表面温度を測定する。これにより、遮熱特性を見積もる。その過程において、結晶子や粒子サイズおよび分布,粒子形状,化学組成,着色特性と遮熱特性との相関性を明らかにし、遮熱材料設計の指針を得る。
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Causes of Carryover |
COVID-19感染拡大の影響で、実験の順序を変更せざるを得なかったため、消耗物品の変更が生じた。また、学外機関での実験や学会発表等への出張ができなかったことも理由である。使用計画については、令和2年度において未導入の備品(ガス雰囲気焼成炉,溶媒濃縮装置)の購入および近赤外線照射装置を構築するため部品,試薬等の消耗品代を計上する予定である。
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