2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K15333
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤川 鷹王 京都大学, 高等研究院, 特定研究員 (70839688)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多孔性配位高分子 / 不斉構造 / ヘリセン / 螺旋反転 |
Outline of Annual Research Achievements |
螺旋状のπ共役系分子を有機配位子として用いた金属有機構造体(MOF)を構築し、新奇キラル多孔性材料の開発と物性解明に挑戦する。ヘリセンのような螺旋不斉を有する分子は、2つのエナンチオマー間を螺旋反転挙動により構造変化できるという特徴を有する。このような一般的なキラル分子には存在しない独自の動的挙動を導入したキラルMOF材料は、キラル環境・外部環境に応答した構造変化を示すことが期待できる。またヘリセンは強い円偏光二色性(CD)および円偏光発光性(CPL)を示し、なおかつ分子間配向に依存したキラル光学特性の増減が予測されている。そこでMOF中に周期的にヘリセンを配置したマルチヘリセン空間を創造することで、配置理論の検証と優れたキラル光学特性を示す結晶性材料の開発を目指す。不斉空間を利用した光学分割材料や骨格の可動性を利用したゲート型ガス吸着材料への展開に加え、螺旋分子特有のプロパティを組合わせた新たなキラルセンシング材料としての可能性も探る。 2020年度は螺旋状π共役系を組み込んだ有機配位子の合成と、得られた配位子を用いたMOF結晶の作製および物性評価に取り組んだ。現在までに[4]ヘリセン配位子を導入した二重インターペネトレイト型2次元MOFや、電子不足芳香環である四塩素化ペリレンビスイミド(PDI-Cl4)を骨格として組み込んだ3次元MOFが得られている。X線結晶構造解析による構造同定と、熱重量分析や粉末X線回折測定による安定性の評価、およびガス吸着特性の評価を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は螺旋π共役骨格を分子モチーフとして有する有機配位子の設計と合成を行い、合成した配位子と各種金属塩をソルボサーマル条件下にて反応させることで様々なMOF結晶を合成した。まず初めに5,8位にカルボキシフェニル基を置換した"くの字"型の[4]ヘリセン配位子を新たに合成し、1,4-ジピリジルベンゼン配位子と硝酸亜鉛存在下、DMF溶媒条件で加熱することにより結晶を得た。X線構造解析により本結晶は、ホモキラルな2次元ネットワークがエナンチオ対をなして相互貫入したシートが更に積層することによって形成された2次元MOFであり、結晶中に27%の空隙を有することが明らかになった。空隙中の溶媒分子を加熱乾燥により除いた状態でも同様の結晶構造を維持していることが粉末X線回折測定と熱重量分析により支持された。[4]ヘリセン構造は17kJ/mol程度の低い反転障壁をもつことから、部分的に柔軟性を有した吸着材料としての性質を調べる目的でガス吸着測定を行なった。195Kにおいて二酸化炭素とアセチレンを吸着することが判ったが、当初期待したようなGate-Opening挙動は観測されなかった。得られた[4]ヘリセンMOFではヘリセン構造が密にスタックしており、螺旋構造の柔軟性を活かすことができない。そこで新たな螺旋π共役系として四塩素化ペリレンビスイミド(PDI-Cl4)に着目した。本分子骨格は塩素原子の立体反発により捻じた分子骨格をもち、さらに電子不足芳香環であることから強いホスト-ゲスト相互作用が期待できる。そこでピリジル基を置換したPDI-Cl4配位子の合成を行い、4,4'-ジフェニルジカルボン酸と硝酸亜鉛と反応させることで赤褐色の単結晶が得られた。現在は本結晶のX線結晶構造解析に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究成果として、螺旋π共役系分子骨格を有する有機配位子の合成と、これを用いたヘリセンMOFの作製と結晶構造解析に成功している。当初予定していた[4]ヘリセン配位子について様々なMOF結晶を作製したが、本研究の目的の一つであるキラル分子の認識に使えるほどの十分な大きさの細孔を有するMOFは得られていない。くの字型リンカーである[4]ヘリセン配位子では探索できるMOF構造が限られているため、今後は直線型のPDI-Cl4配位子を組み込んだMOFの合成に取り組み、電子不足芳香環であるPDI-Cl4骨格のホスト-ゲスト相互作用を利用することでエナンチオ吸着材料やキラルセンシング材料としての可能性を探る予定である。また、対象としている螺旋状π共役分子配位子と適切な不斉配位子を同時に用いたMixed-Ligand戦略についても検討する。ヘリセン配位子やPDI-Cl4配位子は溶液中ではラセミ混合物であるが、別の不斉配位子のキラル情報をMOF中で転写することにより、不斉な螺旋π共役分子系を結晶内部に再現できると考えている。
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