2020 Fiscal Year Research-status Report
結晶性高分子のひずみ硬化挙動に対する新規分子論モデルの提唱
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20K15345
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
木田 拓充 名古屋大学, 工学研究科, 特任助教 (40866290)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ひずみ硬化挙動 / 結晶性高分子 / 一軸延伸 / 応力-ひずみ曲線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当初の予定通りエチレンのリビング重合が進行するフェノキシイミン錯体を3種類合成し、これらの錯体を用いて単分散かつ分子量が異なるポリエチレン(PE)を6種類合成することに成功した。また、分岐構造の影響を評価するために、エチレンと1-ヘキセンの共重合を行い、短鎖分岐を有する直鎖状低密度PEを4種類合成した。これらの試料を用いて、新しく購入した卓上型引張試験機で破断までの一軸引張試験を実施することで、ひずみ硬化挙動に対する分子構造の影響を評価した。 分岐を有さない線状PEにおいては、分子量が増加するとともにひずみ硬化性が向上するという、従来の報告と同様の結果が得られた。ただし、本研究で用いた単分散PEは、分子量が約15万でひずみ硬化性が不連続に著しく増加した。このようなひずみ硬化挙動の分子量依存性における転移点は従来の多分散PEを用いた研究では報告されておらず、分子量が揃った単分散PEを用いたことで初めて観察に成功したと思われる。また、ステップーサイクル試験を用いてひずみ硬化中の弾性および塑性変形成分の変化を評価した結果、高分子量の試料は弾性成分が高く、低分子量成分は塑性成分が高くなることがわかった。これらの結果より、分子量15万前後でひずみ硬化挙動のメカニズムが異なっていることが明らかになった。さらに、分岐を有するPEは線状PEと比べてひずみ硬化挙動に対する分子量依存性が小さく、かつ弾性成分の寄与が線状PEに比べて高いことが示唆された。 以上の結果より、結晶性高分子のひずみ硬化挙動は、結晶構造変化に由来する塑性成分が支配的な場合と、非晶構造の伸長に由来する弾性成分が支配的な場合に分類されることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、分子量や分岐構造が異なる単分散ポリエチレンの合成に成功しており、既にひずみ硬化挙動に対する分子構造の影響の評価は開始している。いずれの試料ともに、X線散乱やDSC測定、NMR測定を用いた基本的なキャラクタリゼーションは完了している。ひずみ硬化挙動に対する分子構造の影響に関しても、これまで報告されていなかった分子量依存性などを観察することに成功しており、今後の議論の基となるデータが十分得られている。今後はより詳細な変形過程の構造解析や、応力緩和測定などの力学試験に取り組む予定であるが、いずれも測定に必要な装置類は本年度中に準備が整っており、今後の進捗に問題はない。また、来年度以降はより分岐構造をさまざまに変化させた試料の合成も予定している。合成自体は広島大学との共同研究で進める予定であり、問題はない。以上のように、試料の準備から物性評価まで研究計画通りに進捗しており、来年度中には力学モデルの提案に取り組める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度合成した試料に関しては、ひずみ硬化挙動に対する分子構造の影響を議論するために十分な結果が得られているため、早々に論文として結果をまとめる予定である。加えて、延伸温度や延伸速度が異なる条件でも実験を行い、温度および変形速度がひずみ硬化挙動に与える影響を評価する。また、今年度は分岐の長さが一定の試料のみ用いていたが、来年度は分岐長が異なる試料を合成し、分岐構造がひずみ硬化挙動に与える影響をより幅広く検討する予定である。最後に、分子量や分岐長、分岐分率などをパラメータとして導入した、ひずみ硬化挙動を予測できる力学モデルの構築に挑む。
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