2020 Fiscal Year Research-status Report
超分子相互作用とナノ相分離構造の制御を利用した自己修復イオンゲルの創製
Project/Area Number |
20K15349
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
玉手 亮多 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 独立研究者 (70812759)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イオン液体 / イオンゲル / 超高分子量 / 自己修復 / ラジカル重合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、超高分子量ポリマーとイオン液体から形成される新たなタイプの自己修復イオンゲルを創製した。これまでの自己修復ゲル材料においては、水素結合・ホスト-ゲスト相互作用といった超分子相互作用を可逆架橋点として用いるものが大半であった。自己修復性を発現する高分子・イオン液体の組み合わせと検討するなかで、メタクリル酸メチル(MMA)のような汎用ビニルモノマーのラジカル重合をイオン液体中で極低濃度開始剤条件で行うと、モノマー添加率がほぼ100%にて100万以上の数平均分子量(Mn)を持つ超高分子量体が生成され、架橋剤を添加せずともワンポットで透明で自己支持性を持つゲル薄膜が形成されることを見出した。一方、重合溶媒として汎用有機溶媒であるトルエンを用いた場合には、Mnは最大で29万程度であり、自立したゲルは得られなかった。これらの結果から、トルエンのような分子性液体中でのフリーラジカル重合と比較して、イオン液体中では特異的な重合反応の進行により超高分子量体が得られることが示唆された。 イオンゲルの粘弾性を評価した結果、超高分子量PMMAからなるイオンゲルは室温から120 ℃という幅広い温度範囲で安定なゲル状態を維持した。これはPMMAの超高分子量化により高温でも絡み合いネットワークが安定に維持されていることによると考えられる。また、超高分子量PMMAからなるイオンゲルは500%以上の延伸に耐える高い伸張性を示し、その破断エネルギーは典型的なゲル化条件で作成した化学架橋イオンゲルと比較して10倍以上に向上した。さらにこのイオンゲルは化学架橋剤により凍結された網目構造を持たないため熱成型が可能であり、熱成型前後で同等の力学特性を示した。またイオンゲルを切断後、切断面を接触させると、室温・6時間で外部刺激なしに力学強度が完全に修復した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の想定を超えた新たなメカニズムに起因した自己修復イオンゲルを創出したことから、当初の計画以上の進展があったと判断した。超高分子量ポリマーとイオン液体からなる自己修復材料はこれまでに報告がない。汎用モノマーを用いた非常に簡便な手法で高強度性・リサイクル性・自己修復性を持つイオン伝導材料を創製する技術であることから、フレキシブル・ウェアラブルデバイス等への広範な応用が期待できる。本年度は新たに見出した本成果に関する特許を2件出願した。また、これまでの申請者の自己修復イオンゲルに関する研究成果に関するレビューを出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
超高分子量ポリマーとイオン液体からなる自己修復イオンゲルに関するメカニズム検討と応用検討を両輪として推進していく。 これまでの検討から、ゲルを切断後接触させるまでの待機時間(waiting time)に依存して自己修復効率が減少することが分かっており、これは超分子相互作用を利用した自己修復高分子でも見られる現象である(ref. Leibler et al. Nature 2008, 451, 977)。このことから、超高分子量ポリマーを用いた自己修復ゲルにおいても切断直後の切断面は非平衡な状態にあり、素早い絡み合いの再構築が起こっていることが予測される。また、イオン液体とモノマーの組み合わせによって自己修復効率が変化することから、イオン液体と高分子の相互作用も自己修復現象に寄与していることが示唆される。このため、次年度は計算科学なども組み合わせたより詳細な検討を進めることで自己修復現象のメカニズム解明を行っていく。 また、応用面に関する検討では、自己修復性・リサイクル性・高強度性を持ったイオン伝導材料として、歪みセンサーやアクチュエータなどのフレキシブル・ウェアラブル材料としての応用可能性を検証するため、電気化学的特性に関する検討を進めていく。さらに本年度の予備検討から、イオン液体のみならず無機塩が有機溶媒に高濃度で溶解した濃厚電解液を用いた場合でも同様の超高分子量化が発現することを見出していることから、リチウム二次電池のゲル電解質としての適用可能性に関しても検討を行う。
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Research Products
(7 results)