2020 Fiscal Year Research-status Report
電荷を有するトランジスタ分子の分子間相互作用の実験的評価と分子軌道計算への応用
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20K15356
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
角屋 智史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (70759018)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラジカルカチオン塩 / 分子性導体 / 有機半導体 / モット絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
電荷を有するトランジスタ分子の分子間相互作用を実験的に評価するため、有機半導体に基づくドナー分子を用いたラジカルカチオン塩の開発を行った。BEDT-BDTというP形トランジスタ材料を用いて、新規分子性導体(BEDT-BDT)PF6の作製に成功した。結晶構造は、ドナーとアニオンの比が1:1の単斜晶系であった。組成比からハーフフィルドのモット絶縁体と考えられる。この塩におけるBEDT-BDT分子はθタイプで配列している。ADFプログラムによって見積もられた分子間トランスファー積分は、t1 = -33 meV、t2 = 22 meVであった。これらの値を用いて強束縛近似によるバンド計算を行った結果、二次元的なフェルミ面が導かれた。電気抵抗の温度依存性は半導体的な挙動を示した。アニオンの大きさを変えた(BEDT-BDT)AsF6も開発できた。AsF6塩はPF6塩と同型構造である。アニオンはディスオーダーをしているが、ドナー分子はθ配列を形成している。抵抗率の温度依存性は半導体的挙動を示した。93 Kまで構造相転移は観測されなかった。強束縛近似によって計算したフェルミ面は270 Kでは閉じていたが、93 Kでは大きく歪む。これは、熱収縮によって分子間の二面角が広くなり、スタック方向のトランスファー積分t1が小さくなることに由来する。BEDT-BDTのセレン類縁体の合成にも成功した。このドナー分子は基本的に先行研究のBEDT-BDTと同型構造であった。(BEDT-BDT)ClO4も作製に成功した。これも組成比からモット絶縁体と考えられる。また新規ドナー分子として、BEDT-BDSの合成を完了した。現在、有機伝導体の作製をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的であるトランジスタ材料を用いた分子性導体を開発し、構造と物性評価をまとめて論文発表できたため。また、類縁体の合成も完了し、計画的に研究をすすめることができていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は熱起電力や反射スペクトルなどから、分子間相互作用を実験的に見積もり、分子軌道計算との照合を行う。また別の種類の分子骨格を用いて、伝導体の作製に取り組む。これまでに得られた半導体分子に基づく伝導体が、すべてハーフフィルドのモット絶縁体であり、反射スペクトルや熱起電力の測定が難しいと考えられる。今後は、以前、金属的伝導性を示したBTBT骨格を中心に新規ドナー合成を進める。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルスの影響で、学生とともに行う研究活動が6月から開始された。このため、例年より試薬などの消耗品関係の支出が少なくなった。次年度使用額として28万円程度あるが、研究計画の都合上、合成用設備として低温恒温槽や真空マニホールド、エバポレーターなどが必要になったので、これらの導入費用に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)