2021 Fiscal Year Research-status Report
電荷を有するトランジスタ分子の分子間相互作用の実験的評価と分子軌道計算への応用
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20K15356
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
角屋 智史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (70759018)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラジカルカチオン塩 / 分子性導体 / 有機半導体 / モット絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度までの研究をベースにBEDT-BDT骨格の分子系を中心に、ラジカルカチオン塩を志向したドナー分子合成を行った。ベンゾヂチオフェン部位の硫黄原子をセレン原子に重カルコゲン置換したBEDT-BDS分子を新たに合成し、これを用いて新規ラジカルカチオン塩(BEDT-BDS)PF6の開発に成功した。結晶構造などの基礎物性を評価した結果、先行研究の(BEDT-BDT)PF6と同じ分子配列を形成していた。一方で、分子軌道計算で見積もった(BEDT-BDS)PF6の結晶内の分子間相互作用は、異方的に変化した。これにより電子構造は擬一次元のフェルミ面が導かれた。分子間相互作用の変化は、重カルコゲン置換の効果であると考えられるが、もう一点の可能性は、分子の屈曲度合いが変化したことである。BEDT-BDT骨格は、N字型のかたちをしている。本研究で、中央のベンゾジチオフェン骨格の硫黄をセレンに置換したことで、C-S(Se)-C結合における角度が変化し、BEDT-BDSはN字型の分子屈曲の程度が大きくなった。これにより、分子配列は同じでも分子間の分子軌道の重なりがわずかに変化し、電子構造の次元性が変化したと考えられる。重カルコゲン置換による、分子間相互作用はこれまでTTF系などに広く使用されてきた伝統的な手法であるが、これらの分子は左右対称の分子であり、特徴的な分子の屈曲がない。本研究では、重カルコゲン置換に加えて、新たに分子の曲がりを制御することで、分子間相互作用のチューニングができうることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベンゾチオフェン骨格の分子系を用いたラジカルカチオン塩の開発という部分においては、新規化合物の開発ができたという点で一定の成果があった。今後も継続してすすめる。一方で、このラジカルカチオン塩の結晶内の分子がもつ電荷(価数)の制御に関しては、まだ見通しが立っていない。これは、対アニオンの価数を変化させることで、解決を試みたが、その場合、ラジカルカチオン塩の結晶が作製できない。分子の酸化電位からある程度、ラジカルカチオン塩を形成するかどうかは予測できるが、その価数はまだ予測できないというのが現状である。本研究では、様々な+0.5や+0.33など様々な電荷のバリエーションをもつラジカルカチオン塩の開発を通して、分子間相互作用を熱起電力、反射スペクトルなどから実験的に評価し、分子軌道計算との比較を行う。これにより、計算の精度やそれぞれの分子系に良く適合する規定関数の条件を特定したいが、そこまでの段階にはまだ至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は2022年4月に異動した関係で、まずは実験室のセットアップから始めなくてはならなくなった。前所属先からの装置移動や、実験室のコンセントの配備など年度初めはこれらに時間を割いている(2022年5月現在)。今年度は、これらの整備と研究を同時並行ですすめていく。研究方針として、BEDT-BDT骨格の分子系を用いたラジカルカチオン塩開発は継続して行う。研究範囲を広げるため、ピレンやペリレンといったシンプルな芳香族炭化水素系でも物質開発を展開する。このとき、従来報告されているスタック構造以外での分子配列を形成しやすいような分子設計を着想したので、そのデザインが汎用的であるのかどうかを検証する。特に、①部分酸化を有する、②二次元的な分子間相互作用を形成するラジカルカチオン塩の開発を目指す。同じドナー分子でも、対アニオンとの組み合わせで組成の異なるラジカルカチオン塩はできうるので、サンプル例を増やし、分子がもつ価数と分子間相互作用(トランスファー積分)との相関関係に着目しながら、研究をすすめる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で、多くの学会がオンライン開催となっている。これにより、形状していた旅費はほとんど使用していない。この分は、実験に使用する消耗品に充てる。
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Research Products
(2 results)