2021 Fiscal Year Research-status Report
スピネル型カルコゲナイド化合物に着目したグリーンギャップフリー発光半導体の創出
Project/Area Number |
20K15363
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
永井 隆之 東京工業大学, 元素戦略研究センター, 研究員 (30851018)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピネル化合物 / 半導体 / カルコゲナイド / グリーンギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで発光半導体として用いられてきたのは主にGaNに代表されるⅢ-Ⅴ族半導体であるが、これらの物質は青色、赤色領域では高い量子効率で発光を示す一方、緑色領域では著しく発光効率が減少するグリーンギャップ問題を抱えている。本研究の目的はグリーンギャップが存在しない新しい発光半導体物質群を開拓するために、独自の物質探索指針を提案し、その指針に合致する物質としてスピネル型カルコゲナイドを検討するものである。今年度は、昨年度に合成の目途が立ったZnSc2S4とMgSc2S4の固溶体における光物性と電気物性の評価を行った。 (1)ZnSc2S4においてバンドギャップ(Eg=2.1eV)に対応したオレンジ色のフォトルミネッセンスを観測した。この観測されたフォトルミネッセンスの発光寿命は数ナノ秒と短く、発光波長の温度依存性がバンドギャップの温度依存性とよく対応していることから、得られたフォトルミネッセンスは不純物や欠陥を介した発光ではなく、バンド端発光あるいはエキシトン発光であると示唆される。さらにMgを固溶することによってバンドギャップの高エネルギー化に成功し、それに対応して発光の色がオレンジから黄、緑、青と変調される結果が得られた。従来の発光半導体では、固溶体にすると結晶性の劣化や格子欠陥によって発光スペクトルの半値幅がブロード化するが、Zn1-xMgSc2S4では固溶体でも発光スペクトルの半値幅は変わらず、固溶体でも色純度の高い発光スペクトルが得られた。 (2)元素置換によってZnSc2S4のn型半導体化、およびp型半導体化に成功した。キャリア移動度も光電子半導体として近年注目を集める硫化物系ペロブスカイト化合物と遜色なく、ZnSc2S4が光電子半導体として優れたキャリア輸送特性を有することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標の一つであったスピネル型硫化物ZnSc2S4へのキャリアドーピングによるn型半導体化、およびp型半導体化を達成できたことに加えて、昨年度からの課題であったZn1-xMgxSc2S4の基礎光学物性も網羅的に測定できたこともあり、順調に進展しているといえる。目標の一つであった薄膜作製は未だに成功していないが、多結晶の固溶体でも半値幅が変わらない優れた発光特性が得られており、総合的に(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はこれまでの結果をまとめて学術論文や学会など外部に成果を報告しつつ、スピネル型硫化物Zn1-xMgxSc2S4の単結晶合成に着手する。当初は薄膜作製を目標としていたが、多結晶体で得られた発光特性を単結晶体でより詳細に調べることが今後の物質探索に有効だと考えた。また、MgSc2S4はマグネシウムイオン伝導体の候補物質としても着目されていることから、発光半導体の分野に留まらず広く機能性材料としてスピネル型硫化物を評価する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度に引き続き、学会への参加を見送ったため、主に旅費分を次年度に繰り越した。繰り越し分は単結晶合成の際の原料費に充てる予定である。
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