2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K15379
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
宮崎 怜雄奈 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10756191)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 固体電解質 / Li+伝導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
Li電池の安全性向上のため、不燃性の固体電解質を用いた全固体Li電池の開発が急務である。本研究では、Liフリーハロゲン化物であるNaI格子中にドープされたLi+(ゲストLi+)の伝導を利用し、室温で圧粉成型可能な高Li+伝導体の開発を目指している。 NaI-NaBH4-LiI系の固溶体は、ドープ量が10 mol%以下のゲストLi+が伝導種になることが特長である。本研究では、メジャーイオンであるNa+伝導の可能性を調べるために、NaI-NaBH4-LiI系を既知のNa+伝導体であるNa2S-P2S5系で挟んだ3層ペレットを作製した。3層ペレットを固体電解質、対極にNaを用いて作用極Snの充電試験を行ったところ、充電容量はほとんど観測されなかった。このことからNa+伝導の寄与は少なく、優勢な伝導イオンはLi+であることがわかった。 NaI-NaBH4-LiI系の固溶体は、それぞれの原料をボールミリングすることで作製される。しかし固溶体形成と並行し、副反応(NaBH4 + LiI → LiBH4 + NaI)が生じ、単相試料を合成できないことが課題であった。本研究で、合成温度・圧力を変化させ副反応の進行を調べた結果、低温・高圧下での合成が副反応抑制に有効であることが分かった。今後は高圧合成により、NaI-NaBH4-LiI系固溶体の単相試料の作製を試みる。 また新たな材料合成手法として、クライオミリング法を開拓している。振動型のクライオミリング装置は現在市販されているが、本装置はミリング容器を液体窒素で冷却し、遊星型ボールミリングを行うものである。これにより、低温脆性を利用した微粉末の作製や、低温でのみ安定な相を合成することが可能である。今後はNaI-NaBH4-LiI系固溶体についても、新規相の合成を狙い、クライオミリングによる合成を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NaI-NaBH4-LiI系固溶体は、Li+伝導体であることは実証されていたが、Na+伝導がどの程度寄与しているかは不明であった。本研究ではNa+伝導の可能性を調べるため、NaI-NaBH4-LiI系を既知のNa+伝導体であるNa2S-P2S5系で挟んだ3層ペレットを作製した。3層ペレットを固体電解質に用いて、対極をNaとしてSnの充電試験を行った結果、充電容量はほとんど観測されなかった。一方で、Li+伝導体であるLi2S-P2S5系を用いた3層ペレットで作製したLi/Snセルでは、Li+充電が明瞭に観測された。このことからNa+伝導の寄与は少なく、優勢な伝導イオンはLi+であることが示唆された。 NaI-NaBH4-LiI系固溶体は、合成の際にNaIへのLi+ドープと並行し、副反応(NaBH4 + LiI → LiBH4 + NaI)が生じる。単相試料作製に向け、この副反応の抑制条件を解明した。NaBH4とLiIの粉末を混合し、室温加圧成型したペレットを1~72時間、室温で放置した際の結晶相の変化を調べた。X線回折測定と顕微ラマン分光測定の結果、NaIとLiBH4の存在が確認され、この副反応は室温でNaBH4とLiIが接触するだけで継続して生じることがわかった。また-80℃~60℃、常圧~約700 MPa下でペレットを放置した結果、低温・高圧ほど副反応を抑制できることが分かった。 新たな材料合成手法として、クライオミリング法を確立した。これは、液体窒素によりミリング容器を冷却しながら遊星型ボールミリングを行う手法であり、低温でしか安定に存在しない相の合成や、低温脆性を利用した微粉末を作製できる。実際にLiIリッチなLiI-LiBH4固溶体を合成しており(R. Miyazakiら、2020年)、クライオミリング装置については、現在特許出願中である(特願2021-073764)
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Strategy for Future Research Activity |
NaI-NaBH4-LiI系固溶体合成の際の副反応(NaBH4 + LiI → LiBH4 + NaI)は、低温・高圧ほど抑制できることが分かったため、今後は高圧合成により単相試料の合成を試みる。一方で低温では一般的に固相反応速度は低下するため、NaI-NaBH4-LiI系固溶体の生成速度も低下することが考えられる。そこでNaIにBH4-とLi+をドープするため、NaIとLiBH4を原料に固溶体を合成し、更に伝導度向上のためにCaI2等の多価カチオンドープを行っていく。室温で2×10-5 S/cmを超える伝導度が発現した試料では、実際に全固体電池を作製・評価する。 一般に同じ相中に2種類のアルカリイオンが存在すると、イオン伝導特性は低下するとされている(混合アルカリ効果)。しかしNaI-NaBH4-LiI系はLi+/Na+混合系にもかかわらず、単カチオン系であるLiIよりもLi+伝導度が高い。これは従来の混合アルカリ効果では説明できないイオン伝導機構があることを示唆している。Li+とNa+の運動を個別に調べるため、中性子回折パターンを基にRMC解析による構造モデリングを行い、PDF解析によりLi+やNa+周囲の局所構造とイオン伝導の関係を調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度に比較的安価な試薬類で材料探索ができたことや、コロナの影響で出張費用や学会発表のための旅費・宿泊費が未使用となったため、未使用額を次年度に繰り越した。本年度は、前年度の繰越金を原料試薬や消耗品類の購入に使用する予定である。
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Research Products
(9 results)