2020 Fiscal Year Research-status Report
環状タンパク質の四次構造制御による機能スイッチング
Project/Area Number |
20K15403
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
氷見山 幹基 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90828310)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タンパク質 / 四次構造 / 分子修飾 / ペルオキシレドキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
従来のタンパク質集合は、比較的単純な形状に限られ、集積に基づくタンパク質機能の制御は困難であった。一方、天然のタンパク質集合(四次構造)は、集合によってその特異な構造に基づく機能を発現する。四次構造の集合状態を人為的に制御可能となれば、タンパク質の集合状態と機能の同時制御が実現される。本研究提案では、環状タンパク質の四次構造制御技術の開発と、それに基づく機能のスイッチングをめざしている。 本年度はAeropyrum pernix K1由来ペルオキシレドキシン(ApPrx)の化学修飾による構造スイッチングを実証した。ApPrxは二量体が5個集合した、環状十量体を形成する。F80Cアミノ酸変異により、二量体間の疎水性相互作用が消失し、十量体構造は二量体に解離した。F80C変異体に対して、種々の人工分子を結合し、相互作用の再生を試みた。その結果、システインにナフタレン環(Naph)を結合すると、天然のApPrxと同様の環状十量体を形成することが明らかとなった。結晶構造解析により、人工的に導入したNaphが、天然アミノ酸に替わってタンパク質の疎水性相互作用を再生し、構造を制御可能であると示された。本内容で学会発表を2件行い、論文が1報掲載された。 また、Geobacillus stearothermophilus由来リンゴ酸デヒドロゲナーゼの結晶構造解析を行い、高い基質選択性のメカニズムを推定した。この内容で論文が1報受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
構造制御のターゲットとしてApPrxを選択した。まず、ApPrxをベースにタンパク質ビルディングブロックを作成した。選択的にシステイン残基を修飾するために、天然ApPrxが有するシステイン残基をすべてセリンに置換した変異体ApPrx*を作成した。ApPrx*十量体の二量体界面に位置するF80をターゲットにシステイン変異を行い、二量体に解離したApPrx*F80C変異体を作成した。次に、結合する分子として芳香環の大きさが異なる2-ブロモアセトフェノン(Ph-Br)、2-ブロモアセチルナフタレン(Naph-Br)、1-(ブロモアセチル)ピレン(Pyr-Br)を選定し、それぞれApPrx*F80Cに結合した。Ph-Brの結合では、相互作用が弱く環構造が再生しなかった。Pyr-Brの結合では、水に不溶の沈殿が形成した。一方、Naph-BrをApPrx*F80Cに結合したNaph@ApPrx*F80Cは、安定に環状十量体を形成することがゲルろ過クロマトグラフィーにより示唆された。Naph@ApPrx*F80Cについて、結晶構造解析を実施し、人工分子であるナフタレン環がApPrx*の二量体界面で疎水性相互作用を形成し、天然ApPrxの環状構造を再構築していると示された。本内容で学会発表を2件行い、論文が1報掲載された。 また、Geobacillus stearothermophilus由来リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(gs-MDH)の結晶構造解析を行い、高い基質選択性のメカニズムを推定した。gs-MDHの3種の結晶から4つのドメイン構造を決定し、反応サイクルに当てはめることで基質選択性に重要なアミノ酸残基を特定した。本内容で論文が1報受理された。 以上のように、計画通りタンパク質の集合挙動制御が達成され、論文も発表したことから、本研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
構造制御と連動した機能制御を達成するために、リング状態でシャペロン機能を有するThermococcus kodakaraensis由来ペルオキシレドキシン(TkPrx)の構造制御に取り組む。TkPrxは二量体が環状に6個集合した十二量体を形成する。まず、選択的な化学修飾を行うために、天然TkPrxのシステインをすべてセリンに置換した変異体TkPrx*を作成する。TkPrx*の二量体界面に存在するアミノ酸残基F42、F76をシステインに置換し、二量体化する。TkPrx*F42C、TkPrx*F76C変異体に対して人工分子を修飾し、ゲル濾過クロマトグラフィーによりサイズ評価を行う。人工分子の構造と変異の位置を最適化し、効率的な構造制御をめざす。結晶構造解析により、相互作用の詳細を調査する。 構造制御を達成した後、シャペロン機能のスイッチングについて評価する。酵素(初期検討としてMDH)とTkPrx存在下、加熱処理を行い、酵素の残存活性を調べることでシャペロン機能の有無を確認する。二量体化したTkPrx*変異体と、構造制御により十二量体化したTkPrx*のシャペロン機能を比較し、構造と機能の相関を確認する。これらの研究内容の進捗を学会で発表し、情報収集に努め、論文化をめざす。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延により学会の現地開催が中止され、旅費として計上していた金額が次年度使用額として生じた。研究の順調な進展により、消耗品の追加購入が必要なため、次年度使用額を消耗品購入に充てる計画である。
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