2020 Fiscal Year Research-status Report
ナス科植物に虫害防御応答を選択的に誘導するジャスモン酸類縁体の分子作用機構
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20K15404
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加治 拓哉 東北大学, 理学研究科, 助教 (80835520)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 天然物 / ケミカルバイオロジー / ジャスモン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主にジャスモン酸イソロイシンラクトン(JILa)の生物活性の評価と内在性の確認、トマトのCOI1-JAZ受容体との結合活性評価を中心に研究を展開した。 Micro-Tomを用いた生長阻害試験について、文献での実施例が乏しかったため、化合物を1週間に2度投与し、3週齢まで育てた際の地上部の重量によって評価した。その結果、コントロール群と比較した時、400 uMのJILa処理において生長阻害が生じないことが示唆された。また、この濃度でJILa処理は、害虫防御活性試験を実施する3週齢の植物体の葉を用いたRT-qPCR解析において典型的なジャスモン酸応答マーカー遺伝子であるジャスモン酸生合成酵素やスレオニンデアミナーゼ(TD)などの発現を誘導することなく、一部の転写因子を選択的に活性化することが示唆された。また、虫害に対して防御応答活性を示すことが予備的な実験結果ながら示唆されている。 JILaは元々が潜在的な新規ジャスモン酸代謝物として化学合成された分子であるため、トマトにおいて内在する分子か否かについてUPLC-MS/MSを用いて評価した。その結果、葉に傷害を与えた際に、既報通り12OH-JAIleの内在量の増加が見られた一方、12OH-JAIleがエステル結合を形成して環状化した構造を有するJILaについては生じていないことが確かめられた。 JILaがトマトのジャスモン酸共受容体COI1-JAZsに結合するか、in-vitroのpull-downアッセイにより評価したところ、JILaはどのCOI1-JAZとも結合しない一方で、加水分解体12OHJAIleが一部の共受容体サブタイプに結合することが明らかとなった。これらの結果は、JILaの生物活性の活性本体が加水分解体12OHJAIleであることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジャスモン酸イソロイシンラクトンの作用機構を明らかにする上で、次に挙げる進展があった。 (1) ジャスモン酸イソロイシンラクトンが植物の内因性の新規生物活性ジャスモン酸代謝物ではないこと、またそれ自体はジャスモン酸受容体COI1-JAZのリガンドにはならないことを構築したトマトのin-vitroでの実験系において明らかにした。 (2) 一方でジャスモン酸イソロイシンラクトンは実際にトマトにおいて生長を阻害することなく、防御応答を活性化することを示唆する結果が得られており、またその活性がCOI1依存的であることが予備的な結果ながら示唆されている。 (3) 遺伝子発現解析においても、ジャスモン酸応答遺伝子の内の一部の発現がジャスモン酸イソロイシンラクトンにより誘導されることを示唆する結果が得られた。 (4) ジャスモン酸イソロイシンラクトンの加水分解で生じる12OHJAIleは、トマトのCOI1-JAZ受容体のサブタイプのいくつかに結合することがプルダウン実験により明らかにされたことから、ジャスモン酸イソロイシンラクトンの生物活性の活性本体が12OHJAIleであることが示唆された。 以上より、ジャスモン酸イソロイシンラクトンの分子作用機構を、ジャスモン酸応答の部分的な活性化として明らかにできると期待される。そのため、本研究は、当初の計画通り、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ジャスモン酸イソロイシンラクトンの作用機構が、COI1-JAZ受容体と活性本体の結合によるものであることを明らかにするため、トマトのcoi1変異体であるjai1-1株を用いた生物活性評価を行うことで生物活性がCOI1に依存的であることを実証する。また、ジャスモン酸イソロイシンラクトンが生長を阻害することなく、虫害に対する防御応答を活性化している点について、部分的なジャスモン酸経路の活性化についてRNA-seqなど網羅的な遺伝子発現解析を行うことで明らかにする。また、ジャスモン酸イソロイシンラクトンの植物内動態を同位体標識化合物を合成して定量分析することで、加水分解物が真の活性本体であるかを明らかにする。また、ジャスモン酸イソロイシンラクトンによる虫害防御応答の分子作用機構についても、二次代謝産物の定量評価など追加の生物活性評価によって検討する予定である。これらの実験を通してジャスモン酸イソロイシンラクトンの分子作用機構について詳細を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(9 results)