2020 Fiscal Year Research-status Report
特異性を重視したヒトタンパク質発光検出プローブの創製
Project/Area Number |
20K15421
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
西原 諒 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (50846988)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 生物発光 / セレンテラジン / ルシフェリン / ルシフェラーゼ / 酵素反応 / 血清アルブミン / ELISA |
Outline of Annual Research Achievements |
あらゆる組成の溶液で標的タンパク質を簡便かつ高感度に定量分析する手法は未だ十分ではない。ELISA に代表される従来のタンパク質定量分析は、サンプル前処理と長時間の測定(約2-3 時間)が必要である。そこで本研究は、本来酵素ルシフェラーゼとして機能しない(発光触媒機能がない)と認識されてきた天然タンパク質と特異的に発光酵素反応を引き起こす人工ルシフェリン(基質)を開発することで、新規なタンパク質発光分析技術の確立を目指した。 まず初めに標的タンパク質としてヒト血清アルブミン(HSA)を選定し、ルシフェリンには海洋発光生物種由来で、発光反応に酸素分子以外の補因子を必要としないセレンテラジン(CTZ)を選定した。独自に開発したCTZ誘導体50種と血清アルブミンの構造活性相関研究の結果、HSAと比較的高い発光を示すリード化合物を得る事ができた。更にリード化合物の側鎖化学構造を最適化したCTZ誘導体(HuLumino1)は、 ヒト血清などの夾雑系においてもアルブミンだけを「認識して光る」という特異性と高い発光シグナルを示した。HuLumno1は、高い相同性があるウシ血清アルブミンや他のヒト由来タンパクでも発光しない。この特異性は、Molecular Operating Environment (MOE)を用いたドッキングシミュレーションにより、HuLumino1がHSAの薬物結合サイト2に認識されることで向上する事も明らかとなった。本研究で開発した発光試薬は、血清に添加するだけでサンプル前処理なしに、約1分の測定時間で、ヒト血清アルブミンを ELISA と同等以上に定量する事に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホタルや発光オワンクラゲなどの発光生物は、本来特定の発光基質(ルシフェリン)とそれに対応する発光酵素(ルシフェラーゼ)による特異的酵素反応で発光する。一般的にホタルのルシフェラーゼにはホタルルシフェリンと組み合わせが決まっており、異なる生物種ではルシフェリン交差反応は起きない。既存の生物発光プローブは、発光生物種由来のルシフェラーゼを基盤に開発されており、生物発光アッセイには通常、観察対象となる細胞や個体へのルシフェラーゼ(遺伝子)導入が不可欠となっていた。本研究は、ヒトタンパク質であるHSAの触媒機能(ルシフェラーゼ機能)を世界で初めて明るみにし、発光生物由来ルシフェラーゼを利用しないタンパク質発光分析の基礎基盤技術確立に成功した。HuLumino1を用いたヒト血清中のアルブミン定量は、ELISA法で得られた結果と良く一致し、測定時間の大幅な短縮と簡便な測定を可能にしている。前処理なしに、発光試薬の添加のみで任意のタンパク質を特異的に検出できる本技術は、簡便かつ迅速に新規タンパク質定量分析技術及び生物発光法の利用幅拡大の観点からも非常に重要な位置を占める。
|
Strategy for Future Research Activity |
HSA発光分析技術開発を足掛かりに、血清中の金属イオンや他のヒトタンパク質の分析へと応用展開する。特に、他の標的タンパク質として構造劣化抗体及び凝集体に着目している。変性抗体の検出法開発は抗体医薬の他、イムノクロマト体外診断薬において品質管理の観点から極めて重要である。抗体は、熱などの外部要因により立体構造が崩壊して変性する際に、内部の疎水性アミノ酸残基が分子表面へと露出する。ルシフェリンの発光反応は疎水場で高効率に促進するため、劣化抗体の表面疎水性部位をルシフェリン酸化反応場として利用する事で、抗体変性をターンON型発光シグナルで評価できる。熱、pHに加えて振とうによる物理的刺激によって生起する変性抗体とルシフェリン誘導体の混合により発光活性評価する予定である。以上のように、本研究では種々のヒトタンパク質の定性及び定量分析を可能にする汎用的な生物発光分析技術の確立を推進する。
|
Causes of Carryover |
コロナ感染状況を鑑み、初年度人件費に充てていた所要額を次年度の物品費(有機合成用試薬)とその他(施設利用料と論文投稿・論文別刷り料)に充てる事で、本予算を有効に活用する。
|