2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K15440
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 祥太 立教大学, 理学部, 助教 (00792714)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 溶原性ファージ / 部位特異的組換え / 相同組換え / 溶原化 / 枯草菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶原性ファージは自らのゲノムを細菌ゲノムへ組み込むタイプのウィルスである。この組み込みは、ファージ由来の部位特異的組換え酵素(Int)によるファージゲノムと宿主ゲノムの標的部位であるattPとattBの組換えで起こる。一方、最近の研究によりattBを欠損した枯草菌を宿主に溶原性ファージSPβを感染させると、部位特異的組換えではなく相同組換えにより溶原化されることが示唆された。本年度は、SPβのint遺伝子を破壊して部位特異的組換えができないSPβΔInt変異体を作製し、宿主ゲノムに相同組換えで組み込まれる頻度および枯草菌ゲノム領域の選好性について調べた。SPβΔIntを宿主へ感染させると溶菌斑の形成がみられ、溶菌斑の内部よりSPβΔIntのカナマイシン薬剤耐性を利用して溶原菌を選択すると薬剤耐性を示す溶原菌が得られた。溶原化の頻度は野生型SPβに比べて0.1倍の低下がみられた。溶原菌について相同組換えで組み込まれたことをPCR増幅にて確認し、SPβの組込み位置についても調べた。SPβには宿主ゲノムと90%以上の相同性をもつ1-kb以上の領域を3カ所有している。これらの領域について調べたところ、得られた溶原菌の60%がこれら3領域に組み込まれており、相同性の高い領域が利用されやすい傾向が見られた。残りの40%は他のSPβゲノム領域を利用してへ組み込まれたことが示唆された。相同組換え位置が同定された溶原菌ついてファージ誘発剤で処理したところ、部位特異的組換え機構で誘発される野生型SPβのファージ数に比べて、3領域のうち1か所では0.02倍のファージが、2か所からは同等数のファージが誘発された。以上から、相同組換えによりSPβが宿主ゲノムへの組込みおよび切出しによりファージ形成できることが示され、部位特異的組換えは相同組換えにより補完可能であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R2年度の研究の目的は、SPβにおける宿主ゲノムとの相同組換え領域の同定、および部位特異的組換えと相同組換えの溶原化・誘発効率の比較解析である。前者において、SPβが宿主ゲノムと相同な配列領域をファージゲノム内に保持することにより溶原化におけるゲノムの組込みを相同組換えで確立できることが示され、領域ごとにおける組込み頻度にはわずかな差が見られるものの、どの領域も組込みに利用され得ることが示された。さらに、相同組換えで組み込まれた状態からファージ誘発処理によって部位特異的組換えを利用した場合と同様の感染性ファージ粒子を形成することが確認された。したがって、ファージゲノムが相同組換えにより宿主ゲノムへ取り込まれる機構は受動的な現象ではなく、ファージによる能動的な機構であることが示唆された。これまでに、宿主細菌とファージの間における相同組換えは両者のゲノム進化に関わるという報告が多くされてきたが、ファージが相同組換えを利用して溶原化を確立する報告はされていない。今回の解析結果は、ファージ溶原化機構に相同組換えが利用され得ること、相同組換えでも感染能をもつファージ粒子の産生が可能であることが示され、溶原化における宿主ゲノムへの組込み機構に関する新たな知見を得ることが出来たため、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
相同組換えによるSPβの溶原化には、相同組換えタンパク質の関与が推察される。本研究課題を進行中に宿主枯草菌の相同組換えタンパク質RecAの変異体およびSPβにコードされる組換えに関わると予測された遺伝子について変異体の準備が進められている。今後は、SPβの相同組換えによる溶原化の機構を明らかにするため、組換え因子の同定を行う。また、同定された因子の遺伝子発現およびタンパク質の解析を行うことで相同組換えによる溶原化メカニズムについて検討する。
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Causes of Carryover |
R2年度に予定していた出張(学会出席)がオンライン開催になったため、そして1つの学会を見送ったため。前年度の未使用額は、本研究の成果を論文出版や学会で発表するの為の経費として使用する。
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Research Products
(1 results)