2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K15441
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
森永 花菜 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 産総研特別研究員 (60869692)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ファージ / メンブレンベシクル |
Outline of Annual Research Achievements |
腸内ファージは腸内細菌叢と多様な相互作用をしていることが、環境ゲノム解析から明らかになりつつあり、腸内ファージの挙動が注目されている。しかしながら、腸内環境において、実際にファージが宿主細菌とどのような相互作用をしているのかについては未だ多くが謎に包まれている。近年、培養株放出する膜小胞(メンブレンベシクル・MV)中にファージが内包されて伝播されている新しい伝播様式が存在する可能性が見いだされた。そこで、本研究では、腸内環境において、MVに内包されるファージが実際に存在しうるのか、また、どのような宿主細菌と相互作用するのかを明らかにすることを目的とした。 そこで、MVの回収源として、安定的にサンプルの取得が可能なマウスの糞便を用いることとした。本年度は、マウス糞便から、食物残渣及び微生物を除去し、超遠心機を用いることで、MVを回収・精製する方法を確立した。さらに、系統の異なるマウスからMVを回収することに成功した。今後、本MVを用いることで、MV内のファージの存在を、高解像度顕微鏡技術や環境ゲノム解析技術を用いて精微に解析することが可能になることが期待される。 また、最終年度には、MVに含まれるファージが実際に感染能を有するのか、また、フリーの状態のファージと比較し、MVに内包されることで宿主細菌との相互作用は変化するのかを実験的に検証する予定である。マウス糞便由来のMVと宿主細菌を無酸素条件下で平板培地に塗布し、プラークを形成させることで、MV内包ファージの純粋分離を試みる予定であるため、宿主細菌として用いる細菌の分離・培養及び、絶対嫌気性細菌を平板培地で生育させる条件の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、マウス糞便よりMVを回収・精製し、超解像顕微鏡や環境ゲノムDNA解析技術を用い、腸内MVにファージが内包されているのか、また、どのような細菌が腸内MVを生産するのかを明らかにする予定であった。 単一種の細菌培養液からのMV回収は広く行われている。一方で、マウス糞便等の細菌やマウス由来細胞、マウスの食物残渣等多様な物質が混ざった環境からMVを回収する方法に関する知見は少なく、また回収源のサンプルごとに回収方法を検討する必要がある。MV回収・精製は本研究の中核をなす点であるため、本年度は、MV回収・精製方法の検討に注力した。酵素処理や、超遠心機を用いることで、MVを回収し、TEMで観察した結果、不純物の少ないMVを精製することに成功した。さらに、多様な系統のマウス糞便からMVを回収することに成功した。このことによって、今後MV内のファージの存在をマウス系統間で比較することが可能になることが期待される。 また、最終年度で行う予定であるMV内包ファージの分離に、宿主細菌として使用する腸内細菌ライブラリーの拡充も試みた。マウス糞便より、多様な種類の細菌を分離し、ファージの宿主腸内細菌としてストックした。また、これらを用いて、宿主細菌を無酸素条件下で平板培地に塗布し、プラークを形成させることで、MV内包ファージの純粋分離を行うことを想定しているため、絶対嫌気性細菌を平板培地で生育させる条件を検討した。その結果、数種の絶対嫌気性細菌細菌において、平板培地で生育させることに成功した。次年度は、本技術を用いてMV内包ファージを分離する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、回収したマウス糞便由来MVを用いて、腸内環境においてMVに内包されるファージが実際に存在するのか、どのような宿主細菌と相互作用するのかを解明することを目指す。さらに、MVが腸内ファージの感染能に与える影響を検証する。 具体的には、回収したMVを用い、超解像度イメージング解析によって、腸内環境中に、MVに内包されるファージが実際に存在しうるのかを明らかにする 。さらに、どのようなファージが、MV中にどのように、どのくらいパッキングされているのか、MVに含まれるファージにはどのような多様性があるのかを視覚的に明らかにする。さらに、マウス糞便から回収・精製したMV中のファージのメタゲノム解析により、MVに内包されるファージの遺伝学的特徴と、宿主細菌の種類をゲノムワイドに解明する。 さらに、MVに含まれるファージが実際に感染能を有するのか、また、フリーの状態のファージと比較し、MVに内包されることで宿主細菌との相互作用は変化するのかを実験的に検証する。マウス糞便由来のMVと宿主細菌を無酸素条件下で平板培地に塗布し、プラークを形成させることで、MV内包ファージの純粋分離に挑戦する。分離したファージを用いて、MVによって、ファージと宿主細菌との相互作用(付着性、感染性など)に変化が生まれるのかを実験的に証明する。
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Causes of Carryover |
本年度は、マウス糞便よりMVを回収・精製した後、高解像度顕微鏡によるMV観察、さらに環境ゲノム解析を行う予定であった。しかしながら、MVの回収・精製方法の検討に注力していたため、本年度中のMVの解析には至らなかった。 次年度は、本年度繰越及び次年度の助成金を用い、今年度精製したMVの高解像度顕微鏡観察や環境ゲノム解析を行う予定である。 さらに、MV内包ファージの分離を目指す。腸内細菌ライブラリーを宿主細菌としてファージの分離や同定を試みる。本実験において、ファージの特徴の同定や遺伝子解析、腸内細菌の培養における研究費として、本年度繰越及び次年度の助成金を用いる予定である。
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Research Products
(1 results)