2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒストンメチル化酵素G9aによる胎児型ヘモグロビンの制御機構解析
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20K15451
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
高瀬 翔平 東京薬科大学, 生命科学部, 研究員 (60827400)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / ヒストンメチル化酵素 / 阻害剤 / 鎌状赤血球症 / グロビンスイッチング制御機構 / HUDEP-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒストンメチル化酵素G9aを標的とした阻害剤を用いて胎児型グロビンが再活性化するメカニズムを解明するため、令和2年度は下記の2点について研究を推進した。 1. マウスを用いたG9a阻害剤のin vivo活性試験。G9a阻害剤が鎌状赤血球症の治療薬となりうることを証明するため、ヒト型鎌状ヘモグロビンを発現するトランスジェニックマウスの計画繁殖を行い、薬効を評価する準備が整った。また、正常なマウスB6において、G9a阻害剤を連続投与して胎児型グロビンの再活性化および薬剤の安全性を評価した。採血した血球成分を用いて胎児型グロビン遺伝子の発現量を定量PCR法によって評価した。その結果、G9a阻害剤投与1週間後から有意な発現亢進が認められた。加えて、投与4週間後の血球成分を用いたG9aの阻害活性をウェスタンブロッティングで評価したところ、G9a阻害剤によってヒストンH3K9ジメチル化レベルの減少が検出された。また、投与4週間後においても顕著な体重変化が見られなかった。以上の結果から、本薬剤はin vivoにおいてもG9a阻害活性を有するだけでなく、顕著な副作用を示さないことが確認された。 2. G9a阻害における胎児型グロビンの再活性化制御機構に関する解析。胎児型グロビン遺伝子を直接的に制御する主要なリプレッサーBCL11A、ZBTB7Aの発現量について、G9aがこれら遺伝子発現を制御しているかどうかを検討した。マウス赤白血病細胞株B8/3、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2においてG9a阻害剤を処理し、リプレッサーの発現量を評価した。その結果、どちらの細胞株においてもG9a阻害剤によって胎児型グロビン遺伝子の発現量は亢進する一方、リプレッサーの発現量に影響を与えなかった。したがって、G9aはリプレッサーの発現調節には関与せず、胎児型グロビン遺伝子の転写制御をしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ヒストンメチル化酵素G9aを標的とした阻害剤を用いて胎児型グロビンが再活性化するメカニズムを解明することを目的としている。本年度は、先行研究によって開発された強力で選択的なG9a阻害剤の活性評価についてマウス、培養細胞を用いて重点的に解析を行った。 培養細胞におけるG9a阻害剤の胎児型グロビン遺伝子の再活性化が、in vivoにおいても同様の作用を示すことができるのかを正常マウスにおいて評価した。G9a阻害剤を4週間にわたって連続投与した結果、顕著な体重変化等が観察されなかった。また、血球成分における胎児型グロビン遺伝子発現量を測定した結果、1週間投与で顕著な発現亢進が見られた。さらに、G9a阻害活性を評価するため、血球成分を用いてヒストンH3K9ジメチル化量をウェスタンブロッティングによって解析した。その結果、G9a阻害剤依存的にヒストンH3K9ジメチル化量は減少した。以上の結果から、用いたG9a阻害剤は、in vivoにおいてもヒストンH3K9ジメチル化量の減少を伴って胎児型グロビン遺伝子発現量を亢進し、目立った毒性を示さないことが明らかとなった。一方、培養細胞を用いたG9a阻害による胎児型グロビン遺伝子再活性化メカニズムの解析では、胎児型グロビン遺伝子の主要な転写抑制因子BCL11AとZBTB7Aの転写調節への影響について解析を行った。マウス赤白血病細胞株B8/3、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2にG9a阻害剤を添加し、BCL11AとZBTB7AのmRNA発現量を測定した。その結果、G9a阻害剤濃度依存的にヒストンH3K9ジメチル化量は減少するが、BCL11AとZBTB7Aの発現量には影響を与えなかった。G9aはBCL11AとZBTB7Aの転写制御を介さずに胎児型グロビン遺伝子の発現を調節していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒストンメチル化酵素G9aを標的とした阻害剤を用いて胎児型グロビンが再活性化するメカニズムを解明するため、引き続き下記の研究を推進する。 1. 鎌状赤血球症モデルマウスを用いたG9a阻害剤の薬効評価。正常マウスでの結果から、開発しているG9a阻害剤は、毒性を示さずG9a阻害活性を示し、胎児型グロビン遺伝子の発現を亢進する化合物であることがわかった。そこで、鎌状赤血球症モデルマウスを用いてG9a阻害剤の薬効評価を行う。正常マウスで評価した活性に加え、採血した末梢血の血液学的パラメータの測定、ギムザ染色による顕微鏡観察、脾臓の大きさを測定することによって疾病の改善について評価する。 2. G9aによって制御される遺伝子の同定を目的としたRNA-seq解析。G9aは、胎児型グロビン遺伝子の主要な転写抑制因子BCL11AとZBTB7Aの転写を調節せずに、胎児型グロビン遺伝子の発現制御を行っていることが示唆された。そこで、G9a阻害によって発現変動する遺伝子を網羅的に探索するため、RNA-seq解析を行う。ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2を用いて解析を行い、Gene Ontology解析によって有意に発現変動する遺伝子群を同定する。次に、定量PCR法によって各遺伝子の発現変動について再現性を確認する。加えて、特定された遺伝子の過剰発現あるいはノックダウン実験を行い、G9aと胎児型グロビン遺伝子の調節機構について解析を行う。これらの解析によって、G9aと胎児型グロビン遺伝子の再活性に関連する遺伝子を同定し、詳細な作用機構を解明することにつなげる。また、G9aのノックアウト、ノックダウン細胞株を樹立し、細胞内におけるG9aの機能を解明することにつなげる。
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Causes of Carryover |
購入予定のものが入手できなかったため、次年度使用額が生じた。
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