2020 Fiscal Year Research-status Report
異性体解析による有機物の酸化原因の解明と効率的な抗酸化技術の検討
Project/Area Number |
20K15464
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加藤 俊治 東北大学, 農学研究科, 助教 (60766385)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 過酸化脂質 / 質量分析 / 抗酸化 / カチオンーπ電子相互作用 / ラジカル酸化 / 一重項酸素酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の身の回りの有機物(脂質や樹脂、ゴムなどの種々の炭化水素)に生じる酸化は、それを含む製品(食品、化粧品、工業品など)に劣化といった様々な物性変化をもたらす。いずれの有機物においても「酸化」には3つの酸化原因(ラジカル、一重項酸素、酵素)が関わると考えられており、どれが関わるかによって最適な抗酸化対策は異なる。しかし、現在の製品は酸化原因の推定がほとんど達成されておらず、必ずしも最適な抗酸化対策が講じられているとは言えない。近年申請者は質量分析(LC-MS/MS)を用いて、Na+が酸化物(ヒドロペルオキシド体)のヒドロペルオキシ基の結合位置特異的な開裂を誘導する、という“現象”を発見し、これを応用し脂質の酸化原因を明らかにすることに成功してきた。 一方で本現象の原理は未解明のままで、酸化原因の推定は限られた有機物(脂質)に留まっていた。本現象の原理が解明されれば、様々な化合物の酸化原因の解明、ひいては幅広い製品の抗酸化に貢献すると考えられた。そこで、本研究では(1)Na+がヒドロペルオキシ基の結合位置特異的な開裂を誘導する原理を種々の金属イオンや安定同位体を用いた解析により明らかにし、続いて(2)この原理を多様な脂質および様々な有機物(炭水化物など)の酸化物の解析へと応用する。本研究結果を基に酸化原因に合わせた最適な抗酸化を講じ、製品の耐用年数の延長といった経済損失の削減に貢献する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)Na+がヒドロペルオキシ基の結合位置特異的な開裂を誘導する原理の解明:Na+を含むアルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+)を用いて酸化物(ヒドロペルオキシド体)を解析したところ、金属イオン半径に依存したフラグメント機構が観測された。また安定同位体や種々の官能基を有するヒドロペルオキシド体の解析により、本現象にはカチオン-π電子相互作用が関与していることを明らかにした。
(2)多様な脂質および様々な有機物(炭水化物など)の酸化物解析への応用:カチオン-π電子相互作用は酸素分子の他、負に帯電する構造(オレフィン)などを同時に有する化合物に認められる。多くの化合物の場合、酸化はオレフィン構造に生じることが多いため、本法を応用した構造解析が可能と考えられる。一方で一部の化合物においては、オレフィンを持たずとも酸化が亢進する可能性が考えられる。このような酸化物の構造もカチオン-π電子相互作用によって解析可能かを調べるため、本研究ではオレフィンを持たない炭化水素の酸化物を調製し、解析を試みた。結果として検出感度の低下は見られたものの、その構造の解析が可能であることがわかった。
以上の知見は、我々の身の回りの様々な有機物(脂質や樹脂、ゴムなどの種々の炭化水素)の酸化機構解明に繋がると考えられ、ひいては酸化原因に合わせた最適な抗酸化法の探索、製品の耐用年数の延長といった経済損失の削減に貢献することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
様々な化合物のヒドロペルオキシ基の位置が解析可能となったことから、令和3年度は本原理を用いてさらに幅広い化合物のヒドロペルオキシドの構造解析を進める。ヒドロペルオキシド付近の構造はその化合物の酸化機構に依存すると考えられるため、その構造を基に酸化機構を推定する。このように様々な化合物のヒドロペルオキシド構造と酸化機構のデータを蓄積し、多くの製品の抗酸化に繋げていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナにより学会等の出張旅費が減ったため。また感染リスクを減らすため研究時間に制約が生じたため。 昨年度に予定していた実験のための物品購入等に充てる。
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Research Products
(4 results)