2021 Fiscal Year Research-status Report
ゲノミック予測とシミュレーションによる育種最適化基盤の開発
Project/Area Number |
20K15506
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
矢部 志央理 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 作物研究部門, 主任研究員 (60767771)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ゲノム育種 / イネ / 自殖性作物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、多様な作物種において効率的な選抜育種を実現するため、ゲノミック予測モデルの構築および、その予測モデルを用いた選抜法であるゲノミックセレクションの工程を最適化する育種シミュレーション基盤を開発することを目指す。このため、今年度は主に水稲における登熟関連形質の解析、検証データの取得、交配シミュレーション基盤の構築、遺伝解析手法の検討を実施した。 水稲において、登熟は収量に関わる重要な形質であるとともに、その予測が困難な形質である。登熟について提案手法の有用性が示されることで、直接イネ育種に貢献するのみでなく、提案手法の実用性が示される。前年度までに登熟の環境に対する変化をより詳細に記述するために、1つの穂の中で籾が実る効率に当たる指標を提案し、複数の品種にこの提案指標の妥当性を検証した。この提案指標およびその他の登熟関連形質の品種間差を解析し、環境に対する各形質の安定性や形質間相関についての解析を実施し、成果として発表した。この研究により、形質間のトレード・オフの関係が明らかとなり、有用系統の抽出方法を提案した。 品種集団の情報に基づき構築された予測モデルが、より遺伝的多様性の低い育種過程の集団にも適用可能か検証するため、品種集団および2パターンの交配組合せに由来するF2集団において、表現型計測を完了した。また、QTL解析の精度を向上させるため、マーカーの解析についての新規手法を検討した。交配シミュレーションの精度を検証するため、F2集団及びその他自殖系統を想定したプログラムの構築および手法の検討を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
稲の登熟関連形質をターゲットとし、ゲノミック予測モデルの精度および交配シミュレーションの精度を実際のデータを用いて検証するために、今年度は以下の3点について計画していた:(1)品種集団におけるゲノミック予測モデルの改良と選択、(2)2系交配後代集団(F2集団)の表現型計測の完了および登熟関連パラメーターの抽出、(3)実際のF2集団に合わせた品種集団ベースの交配シミュレーションの実施とゲノミック予測モデルの検討。以下に記載する通り、今年度、これらの研究計画の実施を進めた。 水稲の登熟に関連する形質を記述する指標を提案し、複数環境で栽培された複数品種においてそれらの指標にかかる値を抽出し、他形質との比較を行った。これらの形質についてwhole-genome markerでの遺伝解析を品種集団で実施するとともに、予測モデルへの導入を検討した。 上記の品種集団に含まれる品種から選ばれた2つの交配組合せに由来するF2集団について、圃場試験で得られたサンプルの表現型計測を完了した。現在、登熟関連形質の抽出方法について、その精度を加味して改良方法を検討している。 このF2集団においてQTL解析を実施するため、特定のマーカージェノタイピングシステムにおいて、より詳細なマーカージェノタイプを推定する手法を検討・実装した。また、交配シミュレーションを実施するための基盤となるプログラムを構築し、複数パターンの予測モデルをはめ込める形にした。
|
Strategy for Future Research Activity |
水稲の登熟関連形質をターゲットとし、ゲノミック予測モデルの精度および交配シミュレーションの精度を実証試験において検証するために、最終年度では以下の項目を引き続き実施する:(1)品種集団におけるゲノミック予測モデルの改良と選択、(2)登熟関連パラメーターの抽出方法の検討、(3)実際のF2集団に合わせた品種集団ベースの交配シミュレーションの実施とゲノミック予測モデルの適用。これにより、交配シミュレーションに適用する場合の、登熟関連形質の予測モデルの改良にもつながると考えられる。 また、上記のモデル構築に用いた集団(トレーニング集団)と検証に用いた集団(テスト集団)において、登熟関連形質について遺伝解析での検出結果に差があるか確認するため、それぞれの集団についての遺伝解析を実施する。その解析結果に基づき、テスト集団の遺伝構造に合わせてトレーニング集団で構築するモデルを改良する手法を検討する。 複数の作物種に対して予測モデル・シミュレーションシステムの適用可能性を検証するため、自殖性および他殖性植物の選抜育種を想定し、仮想集団のシミュレートや複数パターンのモデルを考慮した選抜シミュレーションの検討を行う。これにより、シミュレーションシステムの拡張を試みるとともに、複数の作物における効率的な選抜手法を明らかにできると考える。
|
Causes of Carryover |
旅費として計画していた額が未使用であり、また、論文掲載などの発表にかかる予算の使用が次年度となったため。 さらに大規模な解析およびシミュレーションを実施する次年度にデータ保存および解析機器にかかる経費を使用するため。 環境データ等の妥当性を検証するためのシステムを利用するため。
|