2021 Fiscal Year Research-status Report
サクラの休眠機構の解明および接ぎ木による開花促進法の確立
Project/Area Number |
20K15520
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
田中 秀幸 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (30738779)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | サクラ自発休眠 / 開花促進 / 自発休眠打破 / DAM遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
サクラ切り枝の周年開花技術開発のため,サクラの休眠機構の解明と,開花制御法の確立を本研究の目的とした.一般的に,花芽の休眠は休眠関連遺伝子であるDAM遺伝子が関与していることが示唆されているが,サクラにおいてDAMと休眠の関連性はまだ明らかにされていない.そこで本年度は,1)サクラ数品種において花芽のDAM遺伝子発現解析を行い,休眠とDAM遺伝子との関係性を調査するとともに,2)周年開花のための早期開花および開花抑制技術の開発を検討した. 1)冬に開花する‘冬桜’や‘十月桜’に加えて‘染井吉野’を含む初春開花の数品種を供試し,9月から3月まで定期的に花芽を採取した.採取した花芽のDAM遺伝子発現解析を行ったところ,初春開花品種では11月中旬まではDAM発現量が増加し,その後低下することが明らかになった.しかし,‘冬桜’および‘十月桜’においては,特に発現のピークは見られず10月から低いDAM発現量を示した.このことより,‘冬桜’および‘十月桜’については,極低温による環境休眠(他発休眠)に入る前に自発休眠が打破されるために,10月~12月に開花するのだと思われる.以上より,サクラにおいても,DAM遺伝子が休眠と高い関係性を示すことが分かった. 2)サクラ切り枝において,低温処理に加えて温湯(40℃)処理をすることで11月開花が可能となったが,十分な低温処理をした切り枝に温湯処理をすると,開花率が低下した.開花抑制を目的に,採取した切り枝にアブシシン酸を2週間ごとに散布し続けたが,開花抑制効果は見られず自然開花期である4月に開花した.また,4℃の低温下で長期保存した切り枝も,4℃下で4月に開花した.しかし,-1℃の低温下では切り枝は開花することなく,7月まで長期保存か可能だった.以上より,早期開花および開花抑制技術を組み合わせることで周年開花が可能になることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由 1)および2)の結果より,休眠機構の解明および開花制御技術の開発は進んでいるが,本研究のもう一つの目的である,接ぎ木による開花制御技術の開発が遅れている.その原因として,冬に開花する品種を台木とした‘染井吉野’苗が枯死してしまい,今年度分析に供試することが出来なかったためである.現在,新たな苗の準備を進めているが,新たな活着苗が作出できたとしても,若い苗は花芽形成をほとんどしないため,今後の分析としては葉芽を用いた分析も検討する.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度,2)の開花制御法の開発において,40℃の温湯処理は,開花に必要な低温処理期間が不十分な場合は開花を促進するが,低温処理期間が十分だった場合は開花を抑制した.これは,DAM遺伝子発現が減少し自発休眠が打破され始めた直後に,高温に遭遇することで再度休眠に導入したと考えられる.近年,地球温暖化により11月~12月において気温が急に高くなる現象が観察されているため,今後多くの地域でサクラの開花が不安定になる可能性が示唆される.そこで,急激な高温遭遇におけるDAM遺伝子発現の変化について,次年度詳細に調査することで,サクラの安定開花および開花制御についての知見をさらに収集する予定である.
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Causes of Carryover |
接ぎ木苗の枯死により,遺伝子発現解析および植物ホルモン解析が十分に行えなかったことに加え,3月に採取した花芽の分析が当該年度内の実施が困難なために,その分析に係る経費を次年度に繰り越した.
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