2020 Fiscal Year Research-status Report
絶滅危惧種イトウの産卵場の再生と評価―生態学・市民科学的手法による保全策の実践―
Project/Area Number |
20K15542
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
鈴木 享子 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 研究員 (30845087)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 絶滅危惧種 / イトウ / 産卵場の再生 / 生息場の連続性 / 保全策の実践 / 環境DNA / 市民科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、北海道北部に生息する絶滅危惧種イトウを対象に、絶滅回避の条件である再生産と保全策の実施に不可欠な生態調査(産卵床分布・魚類相・環境DNA調査)を行うとともに、移動・産卵を妨げている小規模落差の改善と効果の検証を実施し、生息場の連続性と産卵場を再生させることを目的としている。また、継続的な調査や保全活動へと展開させるため、市民科学を導入し地域市民の観察や記録写真の収集を行う。これらの過程を総合的に評価・考察するとともに、一連の作業をモデル化し、今後のアプローチや市民参加の在り方についても併せて提示する。なお、本研究は生態学・水産学・河川工学等様々な分野が融合する学際的領域であり、連携体制を軸に研究を展開する。 2020年度は、主に連携体制の構築、堰の改修(水門板撤去)に向けた許可申請と協力要請、事前の生態調査を行った。 現地のイトウ保護団体と具体的な調査や作業の計画等を打ち合わせ、連携体制の構築を図った。また、イトウ及びサクラマスの産卵遡上環境の改善と再生産の向上を目的とした堰改修のための申請書を猿払村役場及び猿払村漁業協同組合に提出し、許可と協力を得ることができた。現地調査では、対象河川のサンプリング地点を決めるとともに、堰の上・下流の環境を視察した。また、堰の上下流において、環境DNA分析のための採水を行うとともに、魚類相調査を実施した。得られた環境DNAの解析と採捕できた魚類の結果をまとめ、生息魚類の把握を行った。 なお、新型コロナウイルス感染症の影響により現地への移動ができなかった期間が多かったことから、当初の研究に加え、イトウの保全に不可欠な生態学的知見の解析・整理と環境DNA調査の有効性等に関する調査研究も追加して実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2020年度は、主に連携体制の構築と堰の改修(水門板撤去)に向けた許可申請・協力要請、事前の生態調査を実施した。 現地のイトウ保護団体と、堰改修に向けた調査や作業の計画等を打ち合わせ、連携体制の構築を図った。サケ科魚類(主にイトウ・サクラマス)の産卵遡上環境の改善と再生産の向上を目的とした堰改修のための詳細な申請書を作成するとともに、猿払村役場及び猿払村漁業協同組合に提出し、許可と協力を得ることができた。 現地調査では、対象河川のサンプリング地点を決めるとともに、堰の上・下流の環境を視察した。また、堰の上下流において、環境DNA分析のための採水を行うとともに、魚類相調査を実施した。得られた環境DNAの解析結果と採捕した魚種をまとめ、生息魚類の把握するとともに、環境DNA調査と採捕調査の結果を比較した。 新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査の回数が十分とは言えないが、初年度の内容としては概ね順調に進んでいるものと考えている。現地調査ができなかった期間には、イトウの保全に不可欠な生態学的知見の解析・整理と環境DNA調査の有効性等に関する調査研究も追加して実施した。これらの成果は、次年度以降の調査研究に資するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、イトウの生態研究が少しずつ実を結び知見の蓄積や保全策の提案が進む一方、具体的な保全策の実践は進んでいない。本研究では、絶滅回避の条件である再生産と保全策の実施に不可欠な生態調査を行うとともに、具体的な保全策を実践し、生息場の連続性と産卵場を再生させることを目的としている。 2021年度以降は、現地でのフィールドワークにより、産卵場の再生に不可欠な生態調査(産卵床分布・生息生物調査)を実施し基礎知見を得るとともに、小規模落差の改善を行い、移動経路の再生と産卵場の延長、再生を目指す。また、地域市民による観察・記録写真の収集及びデータの集約と視覚化を行う予定である。 具体的には、イトウの産卵期に環境DNA調査と産卵床分布調査を行い、小規模落差改善(水門板撤去)前のデータを得る。その後、水門板撤去の具体的な計画を立てるとともに、堰の下流への影響を考慮し、複数回に分けて作業を実施する予定である。実施後には生態調査を行い、事前事後で産卵床の分布や生息生物の分布がどのように変化したのかを明らかにする。また、長期的なモニタリングや維持管理を視野に入れ、地域市民の観察や記録写真の収集を行う。対象とする地域の選定や収集の方法の検討から始める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、現地(北海道)でのフィールドワークが1回しか実施できず、また学会発表等もオンラインになったことから、旅費の支出(それに伴う人件費・謝金も含む)が大幅に減少した。加えて、パソコン等の電子機器類、また実験器具の一部も入手困難な状況が続いたことから、消耗品の支出も減少した。次年度以降、感染症の状況を見ながら、現地調査を行うとともに、購入を延期していた研究物品を購入したいと考えている。
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