2020 Fiscal Year Research-status Report
局所的に送粉環境が異なる山岳地域での、送粉者多様性が植物に及ぼす影響の検証
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20K15543
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
江川 信 信州大学, 理学部, 理学部博士研究員 (10837743)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 送粉 / 多様性 / 山岳共生系 / 生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、過去に得た訪花昆虫(主にマルハナバチ属)の標本を用いて研究を行うとともに、ウツボグサについて重点的に研究を行った。 1.まず、マルハナバチ属の種多様性の高い上高地岳沢(標高1400mから1600m)および、多様性の低い上高地岳沢の上部(標高2000m付近)で得たマルハナバチ属の標本から虫体付着花粉の採取を行った。当初、乗鞍岳で訪花昆虫の採取を行う計画であったが、新型コロナウイルスによる感染症拡大に伴い、調査活動が制限され十分なフィールドワークが行えなかった。そのため今年度は、過去の標本を元に虫体付着花粉の採取を行った。マルハナバチ属6種111個体から花粉の採取を行いDNA抽出を現在行っている。また、これら111個体は累計13種の植物上から採取された。標高2000m付近では2種のマルハナバチが優占し、1400から標高1600m付近では5種の分布が標本の情報から明らかになった。これは、当初調査を予定していた乗鞍岳と類似した状況である。 2.次に、ウツボグサについては訪花者の多様性の異なる2地点において、訪花頻度、結実率、訪花者ごとの一回訪花あたりの結実率の調査を行った。その結果、訪花者の口吻長とウツボグサの花筒長との対応が良い場合に結実率が高い傾向が確認された。また標高1500m付近ではマルハナバチ3種に加えて、セセリチョウの一種(ヒメキマダラセセリ)が訪花し、他地点より花筒長の変異が大きかった。 今年度の結果は、訪花者の口吻長とウツボグサの花筒長の対応がウツボグサの適応度に影響することを示すとともに、訪花者の多様性が花の種内の多様性に影響することを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 1.虫体付着花粉を用いたメタバーコーディングについては、過去の標本からの花粉の採取を行った。当初予定していた地点でのサンプリングは十分に行えなかったが、花粉の採取を行ったマルハナバチ標本には、訪花植物および、採集地点の詳細な情報があり、今後新たに採取したサンプルと比較に十分耐えるものである。また、採取した花粉からDNAを抽出する環境を整えることができた。 2.訪花者の多様性が植物に及ぼす影響については、ウツボグサについて野外実験を行い、結果の解析を進めている。訪花者の多様性の異なる2地点において、訪花頻度、結実率、訪花者ごとの一回訪花あたりの結実率の調査を行い、訪花者の口吻長とウツボグサの花筒長との対応が良い場合に結実率が高い傾向が確認された。またマルハナバチ3種に加えて、セセリチョウの一種(ヒメキマダラセセリ)が訪花する地点では、花筒長の変異が大きいことを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.訪花性昆虫の採集と虫体付着花粉を用いたメタバーコーディングについては、過去の標本からの虫体付着花粉のDNA抽出を進めるとともに、乗鞍岳の中標高(標高1500m付近、訪花者の多様性が高い)、および乗鞍岳の高標高(標高2500m付近、訪花者の多様性が低い)に焦点を絞り訪花昆虫のサンプリングを行う。送粉者のサンプリングは植物の開花時期を網羅するように行い、開花している植物の周辺で待ち伏せて訪花者を採集する見つけ取りを主に用いる。採集した昆虫の体表から花粉を採取し、次世代シーケンサーを用いて解析する。当初、開花時期に合わせて、3年分の訪花昆虫のデータを得ることを予定していたが、2020年度は感染症の蔓延に伴い、十分な野外調査を実施できなかったため、過去の標本と比較することで埋め合わせる。 2.送粉者の多様性が異なる地点間での植物群集構造の比較:送粉者の多様性の低い高山で、植物の多様性は減少しているのか?また送粉者の多様性の低い高山と多様性の高い山地の両方に分布する植物では形態に変化を生じているかについて統計モデル(GLMM)を用いて比較する。虫体付着花粉のメタバーコーディングが完了するまでの間は、訪花昆虫の採取時に訪花していた植物および、付着花粉の形態からの種同定を元に解析を進める予定である。
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