2020 Fiscal Year Research-status Report
自然環境再生を実現する微生物生態系形成プロセスの解明
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20K15544
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 研志 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特任研究員 (80870188)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 微生物生態系 / 代謝ネットワーク / 環境保全再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物資源の保全は社会にとって必要不可欠である一方で、自然環境は刻々と減少しており、失われた自然を再生することが重要な課題である。そこで本研究の究極の目標は、自然環境をゼロから再構築するための枠組みの構築である。微生物は生命に必須な物質循環の中核を担い生態系の基盤を形成する。その為、微生物生態系を理解し、設計・制御することが必要不可欠である。本研究では、微生物生態系の形成プロセスを、微生物間代謝ネットワークに着目することで解明し、群集構造の安定性を定量評価することを目的とする。 微生物生態系の形成に関する研究は、生物多様性維持機構の理解に繋がること、および、環境保全・再生の観点から、世界規模の環境問題を打開する極めて重要性の高い研究領域である。また、ヒトの健康では、生活疾患やがんといった重篤な病気と腸内細菌叢の関係が明らかにされており、健全な微生物叢の維持や復元方法の確立が希求されている。 本研究では微生物という生態系における要素が代謝ネットワークで繋がっていく様を捉え、その安定性を熱力学に落とし込むことで定量化する。この試みは今まで概念として議論されてきた微生物生態系の安定性を定量的に捉え、理論的な設計・制御を可能にすることが期待される。また、生命現象におけるネットワークの進化は、既存理論とは全く異なるパターンを示す可能性があり、社会科学におけるネットワークの最適化問題や、情報工学における人工知能技術に対して新規モデルを提供し、それら技術の飛躍的な発展に寄与することが期待される。本研究は分野を横断した新規知見を創出し、イノベーションをもたらすと同時に、地球規模の生命維持の要を担う極めて重要な研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微生物生態系は微生物の定着、代謝産物の多様化、そして、環境変化への適応が連続的に起こることで形成されていくと考えられる。そこで、フェノールを唯一の炭素源とした連続集積培養系に、5種の分離菌株を1種ずつ植菌することで、入植順序が生態系の形にどの様な変化をもたらすのかを解析した。供試菌株としてPseudomonas sp. LAB-08株、Cupriavidus sp. P-10株、Comamonas testosteroni R2株、Variovorax sp. HAB-30株およびAcinetobacter sp. c26株を用いた。全ての入植順序を同時に実施するのは困難を極めるため、第1種目および第2種目をそれぞれR2株およびP-10株とし、残りの3種の植菌順序を変えた計6パターンを実施した。その結果、ほとんどの培養系でR2株が優占種となり他は排除されることが明らかとなった。その一方で、第3種目としてC26株を植菌することで、C26株が優占種となり、HAB-30株も共存することが可能であることが示された。これらの培養系でどのような代謝ネットワークが形成されているかを検討するため、培養上清をOrbitrap-MS/SMで分析した。その結果、菌種数が増加するに従って、代謝産物の種類も増加する傾向にあることが示唆された。また、群衆構造が類似していても代謝ネットワークは異なることが示唆された。これらの結果から、単一基質を競合する菌株でも代謝産物を解したネットワークを形成していることが示唆された。現在、代謝マップの再構築に成功しフラックスバランス解析等を用いた、モデル微生物生態系としての代謝ネットワークの予測を実施している。以上のように、当初計画したモデル微生物生態系における群衆構造変遷と代謝ネットワークの形成プロセスの解析が進められており、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の群集構造変遷の解析および代謝解析を継続して実施する。また、多くの菌株が共存する培養系に注目し、メタトランスクリプトーム解析を実施する。代謝ネットワークをより鮮明に解析するため、安定同位体標識したフェノールを用いる。細胞内外の代謝産物を抽出し分析することで、モデル微生物生態系においてどのようにフェノール分解という機能が発揮されているかを解析する。実験によって得られた各種時系列データを相互に解析することで、純粋培養時を基準とし代謝ネットワークとその変化を可視化する。これにより代謝ネットワークの進化とモデル微生物生態系の形成プロセスを解明する。時系列解析から描画された代謝ネットワークとその変化を、連続的な化学反応式に変換する。ギブズの自由エネルギーを算出することでネットワークの安定性を熱力学的に定量評価する。ケモスタットモデルは基質競合をよく表現している。一方でその本質は競争排除であることから微生物の共存を示すモデルではない。そこで、代謝産物の相互利用を加味することで多種共存可能な代謝ネットワークモデルを構築する。実験から抽出された代謝産物を相互利用した場合の、共存状態の安定性を評価する。以上の熱力学的アプローチおよび新規モデルに加え、実際の群集構造を比較することで、本安定性評価法の検証を実施する。
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Causes of Carryover |
令和2年度の旅費として60万円を計上していたが、コロナウイルス蔓延を受けて、予定していた国際・国内学会への参加を中止したため、次年度使用額が発生している。また、メタトランスクリプトーム解析様サンプルの回収タイミング検討に時間を要しており、令和2年度での実施を延期したため、次年度使用額として計上している。 令和2年度に発生した次年度使用額は令和3年度にメタトランスクリプトーム解析およびメタボローム解析を実施するために使用を予定している。また、コロナウイルス蔓延の状況を鑑みて、令和3年度分に計上した旅費の一部は解析費用として使用を予定している。
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Research Products
(1 results)