2021 Fiscal Year Research-status Report
自然環境再生を実現する微生物生態系形成プロセスの解明
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20K15544
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 研志 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (80870188)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 微生物生態系 / 代謝ネットワーク / 環境保全再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自然環境をゼロから再構築するための枠組みの構築であり、その根幹を担う微生物生態系の形成プロセスを、微生物間代謝ネットワークに注目することで解明し、微生物生態系の制御・再構築を目指した。その為に、基質競合する5種の微生物を用いた連続集積培養系をモデル微生物生態系と位置づけ、各菌株の共存を代謝産物の分配という観点から解析した。その結果、5種の微生物の植菌順序が変わると共存の可否が異なることが示された。また、培養期間中の培養上清を分析することで、微生物間で分配される代謝産物を解析したところ、少なくとも161種が分配されていることが示された。また、植菌した微生物種数の増加に伴って、基質として与えたフェノールの初発代謝産物であるカテコールが検出されるようになり、本研究で用いた5種の微生物はモデル微生物系における根幹機能であるフェノール分解でさえも分担し、かつ、様々な代謝産物を共有する複雑なネットワークを形成していることが示唆された。 基質を競合する微生物が、なぜ仕事を分担しつつ代謝産物を利用するのかを解明することは、微生物生態系を再構築する上で極めて重要な知見である。本研究では、微生物の代謝とそのネットワークを連続する酵素反応として捉え、系全体としての代謝は熱力学的に最も安定な状態、即ち、自由ギブズエネルギーが低くなるようにネットワーク構造が変化すると考え、その検証を目指し、微生物群代謝モデルの構築を試みた。現在までにゲノム情報に基づいた各菌株の代謝モデルの構築を進め、分配される代謝産物の情報から各モデルの結合を実施している。また、遺伝子転写解析結果と紐付けることで、実際に動いていたネットワークを明らかにし、系全体の自由ギブズエネルギーを算出することで検証を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微生物生態系の形成プロセスを解明し、その設計および再構築を実現するため、モデル微生物生態系における異属5菌株の共存を解析した。当初計画では5菌株の植菌順序を変えることで共存パターンを検討し、代謝ネットワーク形成の観点から共存機構を解明することを目指した。実際に、特定の植菌順序でのみ共存が成立することが確認でき、その間に分配される代謝産物の検出にも成功した。これらの情報に基づいて、微生物生態系をデザインし安定に運用する枠組みを構築する為には、システム全体の代謝を予測可能な数理モデルに落とし込むことが重要である。本研究では、ゲノムベースの代謝モデル構築もおおよそ完了しており、複合系代謝モデルの構築に進んでいる。以上のように、当初計画したモデル微生物生態系における、群集構造変遷と代謝ネットワークの形成プロセスの解析が進められていると同時に、代謝ネットワークの安定性の定量評価に向けたモデル構築も進められていることから、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。一方で、当初計画していた遺伝子転写解析は、コロナ禍における研究開始時期の遅れと最適なサンプル調整のため一部遅れが生じた。そのため、研究期間を延長し遺伝子転写解析の結果と代謝モデルを紐付け、実際に動いていた代謝ネットワークを再構築しその安定性評価を実施する。また、共存が成立しない植菌順序における、代謝産物の変化および遺伝子転写解析を実施することで、共存系と何が異なり、エネルギー的に不安定であるのかを検証していく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究によって、基質競合をする複数の微生物種でも可能であり、微生物間に生じる代謝ネットワークの形成プロセスが重要であることが示された。現在までに、細胞外に放出され微生物間でやり取りされる代謝産物が同定されており、各菌株の遺伝子転写と紐付けることで代謝ネットワークの描画を進めている。 目的機能を効率的に発揮し安定に維持可能な微生物生態系を設計し運用する為には、様々な微生物種を組み合わせたモデル微生物系の情報の蓄積が必要不可欠であると同時に、そこから見出される共通原理を理解することが重要である。そこで、ゲノムベースの代謝モデルを個々の微生物で作成しそれらを結合することで、微生物生態系としての代謝モデル構築を進めている。一方で、複合系における代謝フローの推定は依然としてハードルが高く、2種の関係に迫るにとどまるのが実情である。そこで今後の研究推進方策として、複合系代謝モデルを運用するアルゴリズム開発を専門家との共同研究として進めることを計画している。 代謝ネットワークの形成には個々の微生物が代謝産物利用に適応することが必要不可欠である。一般に、微生物は最も利用しやすい基質を優先的に使うことから、複数の代謝産物を同時に利用していくとは考えにくい。しかし一方で、実際に複数の代謝産物が利用されていることが示唆されており、1個体群内でさえ様々な形質を持った細胞が存在し、そのバランスによって個体群の挙動が変化することが考えられた。即ち、複数の微生物の挙動に注目し解析を行なってきたが、1細胞レベルでの代謝や増殖から代謝ネットワークを理解することが必要不可欠である。そこで、1細胞分取技術と代謝産物の分析を組み合わせることで、1個体群の持つ揺らぎから微生物共存と機能の安定維持機構に迫る。
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Causes of Carryover |
本研究課題の開始時期とコロナ禍に伴う研究機関への入構制限が重なったため、3ヶ月程度の研究期間短縮を余儀なくされた。そのため、計画していた遺伝子転写解析のための準備が十分ではなく、適切な解析ができない恐れが生じたため、研究期間の延長を申請し確実な実験遂行に取り組んでいる。また、参加を予定していた学会がオンライン開催となったこと、他大学への出張制限があったことから、旅費の支出が当初予定よりも少なくなった。 計上された次年度使用額は主に遺伝子転写解析の委託解析費に使用する。既に委託解析は発注済みであり6月中には解析が完了する。その結果を持って、本研究課題を総括し、本年度後半に開催される日本微生物生態学会および日本生物工学会へ参加を予定している。また、研究成果の論文化のため英文校閲及び論文投稿料として使用を計画している。
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] Fluctuation of Bacterial Interactions Enables Coexistence of Different Bacterial Strains in Chemostat Conditions2021
Author(s)
M. Honjo, K. Suzuki, K. Amano, Y. Saito, K. Takeda, M. Kimura, H. Ishizawa, Y. Tashiro, H. Futamata
Organizer
World Microbe Forum, American Society for Microbiology, Federation of European Microbiological Societies
Int'l Joint Research
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