2023 Fiscal Year Annual Research Report
大気CO2濃度が菌根菌との相互作用を通して光合成機能と樹木群集構造に及ぼす影響
Project/Area Number |
20K15559
|
Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
赤路 康朗 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物多様性領域, 主任研究員 (50810256)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 植物-土壌フィードバック / 光合成 / 菌根菌 / 細根 |
Outline of Annual Research Achievements |
高CO2環境では最大カルボキシル化速度の低下に起因する光合成能力低下(光合成ダウンレギュレーション)が発生することが知られている。本研究では光合成ダウンレギュレーション機構解明を目的とし、我が国の冷温帯主要構成樹種であるブナを対象に栽培実験を実施した。令和5年度は前年度に光合成パラメータを取得したブナ一年生実生42個体を対象に、菌根形成率、細根形態、および土壌環境を計測した。イタヤカエデ近傍土壌で生育させたブナ実生は他の二つの土壌タイプ(ブナ近傍土壌・トチノキ近傍土壌)で生育させた場合よりも菌根形成率が低かった。イタヤカエデ近傍土壌における実生の菌根形成率の低さは、低土壌有機物量に起因するケノコッカム感染率の低さによるものと考えられた。一方で、イタヤカエデ近傍土壌の実生は高CO2環境で細根をより発達させていた。土壌タイプの違いに比べて、大気CO2濃度の違い(400ppmまたは700ppm)は実生の菌根形成率を左右する重要な要因ではなかった。菌根形成率と光合成パラメータの関係性を解析したところ、高CO2環境では実生の菌根形成率と最大電子伝達速度(Jmax):最大カルボキシル化速度(Vcmax)比の間に有意な正の相関関係がみられた。このことから、高CO2環境で実生の菌根形成率が高いとカルボキシル化反応への資源分配が低下し、光合成ダウンレギュレーションが発生しやすくなることが示唆された。 以上のことから、林冠木樹種に依存した林内の土壌環境の空間的不均質性が実生の菌根形成率に違いを生み、結果として高CO2環境への光合成順化能に違いが生じることが考えられた。また、どちらのCO2濃度条件においてもブナ近傍土壌の実生の光合成と成長速度は比較的低かったことから、今後のCO2濃度上昇が植物-土壌フィードバックの方向性変化を通して樹木群集構造を大きく変化させる可能性は小さいことが予想された。
|