2020 Fiscal Year Research-status Report
菌類による天敵寄生蜂を利用した対菌食者防御システムの解明
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20K15562
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
向井 裕美 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70747766)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 化学生態学 / 相互作用 / 生物的防御 / 菌類 / 寄生蜂 |
Outline of Annual Research Achievements |
シイタケハエヒメバチは,寄主であるナガマドキノコバエ類幼虫の被食を受けたシイタケ菌糸の匂いに強く誘引される。幼虫の被食が菌糸をどのように変化させ,寄生バチを誘引する匂いを発するのかを解明するため,(1)無処理,(2)物理的損傷処理,(3)幼虫による被食処理,を施したそれぞれのシイタケ菌床について,固相マイクロ抽出法(SPME)により揮発成分を捕集し,GC-MSにより解析した。その結果,(2)物理的損傷区と(3)幼虫被食区では,ある特定の直鎖アルコール類やセスキテルペン類等が増加することがわかった。(3)幼虫被食区では,特定はされなかったものの,他の処理区では見られなかった特有の化学物質(compound A)が増加することが明らかになった。(2)物理的損傷区と(3)幼虫被食区で検出された特有の化学物質群について,GC-EADによりハチの触角応答を調べると,いくつかの物質では顕著な応答が確認された。以上の結果は,ナガマドキノコバエ類の幼虫による菌糸の物理的損傷や被食に伴う刺激により発生する特定の揮発性化学物質が,ハチの誘引性を高める機能をもつことを示唆している。 植物では,植食性昆虫の被食により特定の揮発化学物質を放出して寄生バチを誘引することが既に知られており,その主要成分のひとつであるモノテルペンアルコール類が今回の調査でも検出された。これに加え,菌類や微生物特有のモノテルペンアセテート等も検出され,ハチはこの物質に強い触角応答を示した。シイタケ菌は,植物と同様の化学物質に加え,菌類独自の化学物質を併用した独自の誘引システムにより,菌食性昆虫の寄生バチを利用している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は「シイタケ菌によるハチ誘引化学物質の特定」を達成目標として掲げ,それを達成することができた。また,主著論文1報,共著論文1報,著書分担執筆1件,学会講演発表1件を成果として発表することができた。以上の活動実績から,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,シイタケ菌,シイタケ害虫であるキノコバエ,その天敵寄生バチを対象として,1)菌類による匂いを利用した寄生バチの行動操作を実証し,2)菌食性昆虫を宿主とする寄生バチの化学感覚特性を解明する,という二段階のアプローチにより課題を遂行する。令和3年度は,菌食性昆虫を宿主とする寄生バチの化学感覚特性を解明するため,「シイタケ菌の匂いに対する寄生バチの行動及び電気生理学的応答の調査」を実施する。令和2年度の研究において特定された候補化学物質群について,それぞれの物質を単独もしくは組み合わせて提示し,寄生バチの触角応答をGC-EADにて確認する。さらに,Y字型ガラス管を用いた選好試験により,寄生バチが最も強く好む物質やその組み合わせを明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該助成金は,新型肺炎の感染拡大のため,予定していた旅費が使用できなくなったために生じた。翌年度分として請求した助成金と併せて,令和3年度では調査のための旅費及び執筆論文の校閲費として主に使用する。
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Research Products
(4 results)