2020 Fiscal Year Research-status Report
地下に子実体を形成する根部内生菌の分散生態に関する研究
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20K15565
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
中村 慎崇 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (10867534)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 根部内生菌 / 子実体発生 / 分散 / 分類 |
Outline of Annual Research Achievements |
集団遺伝構造解析に用いるためHymenoscyphus monotropaeと思われる菌類の子実体を新たに5県12か所で採集した。また、これらの子実体から落下法により486菌株を取得した。収集した子実体のほとんどは形態的な違いが見出せず、核リボソームDNA領域を用いた系統解析から単系統性が強く支持されたことから単一の種であると考えられた。しかしながら、一部地域由来の子実体は全体的に幾分小型で、分離菌株の培養性情が他の地域由来の菌株と明確に異なっており、前述のDNAに基づくデータも他地域由来の子実体との違いを示した。このことから、今回採集したH. monotropae様の子実体には複数の種が含まれていたことが示唆された。次年度以降の解析において異なる種を混同することを避けるため分類学的な検討を加える必要が生じたが、当該地域由来の子実体は現在のところ標本数が限られており、今後更なる標本の収集が必要である。 また、収集した分離菌株の寒天培地上における子実体形成条件を検討した。その結果、常温(25°C)では供試した菌株のいずれも子実体を形成しなかったのに対し、低温(10°Cおよび 4°C)条件下では子実体を形成し、その差は統計的に有意であった。これは本菌の野外での発生環境とも一致しており、本菌子実体の発生に温度条件が重要な役割を果たすことが明らかになった。この結果は、採集した子実体が貴重であっても分離菌株があれば子実体標本を確保できること、発生環境の違いによる影響を受けていない子実体間での比較が可能になることから今後の研究の進展に資するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスに伴う移動制限および研究代表者の所属移動等により採集の開始時期がずれ込んだため、当初予定していた地点での採集が十分に出来ていない。また、研究実績の概要欄に記載した理由により、追加のサンプリングおよび本菌の分類学的な検討を行う必要性が生じたため、当初の計画を先送りにした。
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Strategy for Future Research Activity |
追加のサンプリングを行うとともに採集した標本を用いて形態観察を継続する。現在のところ子実体の形態に基づいて種を識別する手がかりは十分ではないが、実験室条件下で子実体を発生させることが可能になったことにより、発生環境の同じ子実体間で形態的に種の識別が可能であるか調査する。 同時並行して、当初予定していた集団遺伝構造解析に用いる分子マーカーの開発を進めるとともに、当該マーカーが完成次第、前年度に収集した菌株を用いて順次解析を開始する。令和3年末以降に胞子トラップを用いたサンプリングを行う。
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Causes of Carryover |
感染症流行に伴う移動制限および研究代表者の所属の移動のため採集開始時期が遅れたことにより、実施計画が全体的にやや遅れている。それに伴って、旅費およびマーカー開発費等が浮いたことから次年度使用額が生じたが、今後は当初計画していた内容を進める予定であることからプロジェクト期間を通した使用総額は変わらない見込みである。
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