2020 Fiscal Year Research-status Report
リグニンおよびヘミセルロースが担う力学的役割を木材の加工性の観点から探る
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20K15570
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
三好 由華 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (50781598)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱軟化特性 / 動的粘弾性 / リグニン / 抽出成分 / 木材標本 |
Outline of Annual Research Achievements |
木材の力学的性質が樹種によって異なることは、様々な物性試験によって既に示されているが、それらの力学的性質の違いは「天然材料である木の性質のばらつき」として解釈されることが多く、木材加工・利用の現場においても、数値的根拠に基づいて加工条件を選定するという意識は乏しい。木材加工・利用の「研究」と「実用」の溝を埋めるためには、まずは木材の力学的性質の多様性を正確に把握し提示することが重要であると考える。 そこで本年度は、国内および国外の様々な樹種の熱軟化特性の多様性について正確に比較できるデータベースを作ることを目的として、木材の熱軟化特性への影響が大きい測定直前の熱履歴を同一にした上で、木材標本庫に所蔵されている木材標本(TWTw)約80個体の動的粘弾性の温度分散を測定した。なお、抽出成分の影響によっても木材の熱軟化特性は変化するため、有機溶媒や温水による抽出処理も実施し、処理前後における熱軟化特性の変化についても比較した。 tanδのピーク温度、E”のピーク温度、弾性率についてデータの整理・比較を行った。tanδのピーク温度およびE”のピーク温度は、針葉樹と広葉樹で分布に差があり、針葉樹の方がいずれも高い温度に分布した。一方で、広葉樹の中でも熱帯産の個体は、針葉樹と同程度の温度域でピークを示す傾向が認められた。抽出処理による熱軟化特性の変化を比較したところ、抽出処理による重量減少率と一定の関係は認められず、抽出成分の種類や細胞壁中での存在場所についても考慮する必要があることが示された。 得られた全ての結果について、樹種、生育場所、抽出処理による重量減少率、組織構造等の観点から整理を試みたが、各種因子と熱軟化特性に単純な関係性は認められず、同一の樹種であっても個体によって熱軟化特性は多様であることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、当初計画していた以上の個体数の実験を実施できたことから、想定以上の成果が得られている状況である。次年度は、初年度に熱軟化特性を明らかにした個体のうち、解析の目的に合致する個体を抜粋してさらなる検討を行う予定であり、現在までの進捗状況は良好である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、初年度に測定した試験片の熱軟化特性とリグニン構造の関係について検討を行う。具体的には、グアイアシルリグニンとシリンギルリグニンの存在比を測定し、両リグニンの存在比とtanδのピーク温度またはE”のピーク温度の関係について検討を行う。 また、初年度は樹種、生育場所、抽出処理による重量減少率、組織構造等の各種因子と熱軟化特性の関係について、相互の関係性を考察することしかできなかった。そのため、2年目は統計的な手法を用いて、熱軟化特性の多様性への影響因子についてさらに詳細な解析を加える予定である。
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Causes of Carryover |
物品費のうち動的粘弾性測定の消耗品として計上した部品が、初年度は破損することなく使用できたため、当該消耗品の費用を次年度の物品費として繰り越した。次年度は、試料の採取部位を細胞レベルで確認するために、デジタルマイクロスコープや画像解析ソフトを購入する。また、測定時の温湿度を制御するための液体窒素および窒素ガスや、試験片を作製する際に必要な各種消耗品を購入する。
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Research Products
(1 results)