2021 Fiscal Year Research-status Report
リグニンおよびヘミセルロースが担う力学的役割を木材の加工性の観点から探る
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20K15570
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
三好 由華 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (50781598)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱軟化温度 / シリンギルリグニン / 動的粘弾性 / 木材標本 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に熱軟化特性を測定した、41種87個体の木材標本(TWTw)の全てのサンプルについて、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)によるKBr錠剤法の測定を実施した。既往の研究において、1595cm-1と1509cm-1のピークの面積比とアルカリ性ニトロベンゼン酸化法で定量したシリンギル核リグニンの割合(S核比)の関係から求められた直線回帰式を利用し、サンプルのS核比を推定した。 広葉樹のS核比の分布域は幅広く、多くの樹種ではS核比が0.5以上の範囲に、一部の広葉樹の樹種(熱帯産の広葉樹、ウリン、チドリノキ)ではS核比がほぼ0から0.5の範囲に分布した。針葉樹およびイチョウでは、S核比は0近辺に分布した。 熱軟化温度(ここでは、損失弾性率(E")のピーク温度とする)は、S核比が大きいほど低く、S核比の低下に伴って上昇する傾向が認められた。木材中のリグニンの部分構造(例えば、β-O-4、フェニルクマラン、ビフェニル構造など)の構成比は、リグニン生成時の芳香核(S核/G核)の比に応じて大きく変化することが知られており、部分構造の構成比は、高分子の形状に大きな影響を及ぼすと考えられている。例えば、S核リグニン比が大きい木材では、G核リグニン比の大きい木材よりも、リグニン量が少なく、非縮合型構造(主に高分子の直鎖を担うβ-O-4構造など)の量が多いことが報告されている。本実験に用いたサンプルにおいても、S核比が大きいサンプルほど、リグニン量が少なく、直鎖状のリグニン構造であったとすると、G核リグニンの多い木材よりもリグニンの三次元網目状の構造は疎となり、リグニンのガラス転移に起因すると考えられるE"のピーク温度も低温に分布したと解釈できる。 今回得られた成果から、リグニンを構成する芳香核構造の割合に基づくリグニンの高分子構造の違いが熱軟化特性の多様性と関与することを示す根拠を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度に動的粘弾性を測定したサンプルうち一部のサンプルを選定してリグニン構造を検討する予定であったが、実際は、初年度に測定した87個体すべてについてリグニン構造の推定が行えた。また、抽出処理前後の粘弾性的性質の変化とリグニン構造の関係についても追加で検討を行い、抽出成分による粘弾性的性質の変化がリグニン構造と関係していることを示唆する結果も得ることができた。 当初の計画以上の実験が実施できたことに加え、想定した以上の成果を得ることができたことから、本研究課題は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、木材中におけるリグニンおよびヘミセルロースの力学的役割を、力学試験の結果から直接的に考察することを目的として、脱リグニンまたは脱ヘミセルロース処理を施した試験片の力学試験を行う予定である。研究計画の変更や研究遂行の上での課題は特にない。全ての年度で得られた結果を総合的に考察することで、木材中でリグニンやヘミセルロースが担う力学的役割について解釈を試みる。
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Causes of Carryover |
世界情勢の影響を受けて年度内に納品できなかった消耗品や実験器具の費用を次年度分として繰り越した。繰り越し分は、前年度に購入ができなかった消耗品や実験器具の購入に充てる。
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