2020 Fiscal Year Research-status Report
環境DNAを用いた魚類における新たな産卵行動モニタリング手法の開発
Project/Area Number |
20K15578
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
辻 冴月 山口大学, 大学院創成科学研究科, 学術研究員 (80867656)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 産卵行動 / 環境DNA / 精子 / マアジ / 地先産卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) ミナミメダカとキタノメダカを雌雄の組み合わせを変えて1匹:1匹で飼育し、産卵行動の前後で雌雄どちらの種の環境DNA濃度が上昇するかを検討した。その結果、産卵行動後に、雄種の環境DNA濃度が急上昇することが示された。これは、繁殖期に見られる環境DNA濃度の上昇の主要因が雄から放出された精子であることを示唆している。また、産卵行動に伴う環境DNAの増加は、卵と精子の放出を伴う産卵の回数を反映することも明らかとなった。さらに、産卵時間帯の環境DNA濃度の急上昇は各メダカの野外生息地でも確認された。 (2) マアジを水槽内で人工的に産卵させ、産卵行動の前後における核およびミトコンドリアの環境DNA濃度とサイズ分布を調べた。その結果、どちらの遺伝子領域も産卵行動後に環境DNA濃度が急上昇するとともに、より大きなサイズの環境DNAが増えることが示された。これは、体細胞よりも大きい精子由来の環境DNAをサイズ分画により選択的に回収できることを示唆している。さらに、雄から採取した精子を海水に添加したところ、水槽での産卵後に見られたのと同様のサイズ分布が観察された。さらに、濃度は初期値(0h)と比較して、12時間後にはどちらの遺伝子領域も5%以下の濃度となった。このことから、精子由来の環境DNAは放出後速やかに分解されることが示唆された。 さらに、他の魚種および自然下での産卵でも同様の傾向が観察されるかを検討するために、アユを対象として、非産卵期および産卵期に、アユの産卵時間帯である日没前後で環境DNAのサイズ分布を調べた。その結果、マアジ同様、産卵期の日没後には環境DNAの濃度の急上昇、およびサイズ分布の変化が見られた。 (3) 舞鶴湾におけるマアジの地先産卵の時期と場所を推定するため、2021年1月から月に一度、新月の大潮にあわせた湾内3か所での日没前後の定期採水を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、大きく研究活動が制限されたが、初年度に計画していた実験内容のほとんどを完了、または開始したとともに、複数の追加実験も実施することができた。(1)については、繁殖期に見られる環境DNA濃度の上昇が、主に放出された精子に由来することを初めて実証することができた。(2)では、当初計画していた水槽内での人工産卵実験に加え、採取した精子を用いた経過時間による濃度およびサイズ分布の変化を検討することができた。さらに、計画にはなかった、野外河川におけるアユでの検証も実施することができた。また、最終的な目的である舞鶴湾でのマアジ地先産卵の時期および場所推定のための定期採水も計画通り開始することができた。しかしながら、感染拡大地域であった京都府への出張が困難となり、湾内での採水調査にあわせたマアジ卵のネットを用いた回収調査は諦めざるを得なかった。以上のことから、順調に当初の計画を上回る成果を挙げることができているものの、一部未実施の項目があるため、「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
舞鶴湾におけるマアジの地先産卵の時期と場所を推定するための定期採水を継続して実施する。環境DNAサンプルは2日以内に解析を行ない、日没前後で環境DNAの急上昇が観察された際には、ネットによるマアジ卵の回収を試みる。 さらに、これまでに得られた成果を論文にまとめ、順次公表する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、県を跨いでの移動が大きく制限されたため、当初予定していた月に一度の京都府への出張が不可能となった。そのため、現地の協力者に急遽代行を依頼したため、旅費が大きく抑えられた。また、所属研究室にてPCR試薬を大量購入したため、特別な割引を受けることができ、試薬代も一部計画より抑えることができた。これらの理由により、次年度使用額が生じた。 2021年度には、当初請求していた助成金と合わせて、論文のオープンアクセス費用や解析用パソコンの購入費に充てる予定である。
|
Research Products
(1 results)