2021 Fiscal Year Research-status Report
環境DNAを用いた魚類における新たな産卵行動モニタリング手法の開発
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20K15578
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻 冴月 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (80867656)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マアジ / 産卵行動 / 精子 / 環境DNA / 地先産卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 舞鶴湾におけるマアジの地先産卵の時期と場所を推定するため、2021年1月から2022年1月までの1年間、毎月一度、新月の大潮にあわせた湾内3か所での日の入り・日の出時の定期採水を実施し、マアジ環境DNA濃度の周年変化および日没前後での濃度差を調べた。その結果、全ての調査地点において、湾外からマアジ仔魚が加入し、成長する夏季をピークとしたマアジの環境DNA濃度の周年変化が観察された。さらに、各月の日没前後における環境DNA濃度を比較したところ、全ての地点において7月の日の出時には日の入り時よりも有意に濃度が高まることが示された。特に、深場に近い地点2の日の出時には日の入り時の約15倍の濃度が観察され、地点2またはその周辺が主要な産卵場となっていることが示唆された。
(2) 上記の研究で収集した舞鶴湾における1年分の定期環境DNAサンプルを用い、魚類網羅的な環境DNA定量メタバーコーディング解析を実施した。その結果、合計255種もの魚類の環境DNAを定量的に検出することができた。
(3) 2020年度の研究により、産卵時に雄が放出する精子が環境DNA濃度の急上昇を引き起こす原因であることが明らかとなっている。また、マアジにおいて精子由来の環境DNAは数時間のうちに分解され検出できなくなることが示唆されている。そこで、自然下において精子由来環境DNAによる濃度上昇の影響がどれくらいの時間継続するのかを、日没前後に河川で産卵を行うアユを対象として検討した。その結果、アユの環境DNA濃度は日没後1~2時間をピークとした大幅な日周変動を示した。さらに、産卵行動によって日中の最大約20倍に急上昇した環境DNA濃度は約7時間で非産卵時間帯の濃度まで低下した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、計画していた全てのサンプリングおよびマアジ環境DNA濃度の定量解析を完了することができた。(1)については、研究計画時の期待通り、日の入り・日の出時の環境DNA濃度の差に基づいてマアジの産卵時期および産卵場所の推定を行うことができた。さらに、(2)については当初の計画にはなかったが、魚類網羅的な定量メタバーコーディング解析にも着手し、良好かつ豊富なシーケンスデータを得ることができた。これらの理由から、研究全体として「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 日の入り・日の出時のマアジ環境DNA濃度の比較から、舞鶴湾内におけるマアジの産卵期が7月であることが示唆された。そこで、本年度は7月の新月の日にマアジ環境DNA濃度の日周変化を調査する。また、マアジの受精卵は孵化までに2日ほどを要するため、新月の環境DNAサンプリング直後に地点2の沖合で大量の海水を汲み上げ、ネット濾過によるマアジ受精卵の回収を試みる。 (2) 現在までに取得した魚類相の定量モニタリングデータを用いた群集解析を実施する。また、主要な生息種については周年での環境DNA濃度の変化、および日の入り・日の出での濃度の変化を検討する。産卵生態が判明している魚種については、環境DNA濃度の変化から推定された産卵期が実際の生態を反映しているかを検討する。 さらに、2022年度が最終年度であるため、これまでに得られた成果の公表にも注力する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、1年目に研究計画を一部変更したことで予算の残りを本年度に繰り越していた。本年度も、出張調査を最小限の回数にとどめたため、旅費が使用予定より抑えられた。さらに、高額な試薬をキャンペーンの割引価格で購入することができたほか、シーケンスの外注先を変更したことにより、外注費用が想定の半額以下となった。これらの理由により、次年度使用額が生じた。 2020年度は成果の公表に注力し、繰り越した予算は当初請求していた助成金と合わせて複数本の論文のオープンアクセス費用に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)