2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of egg buoyancy acquisition mechanism and its evolutionary biological background in teleosts
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20K15581
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
西宮 攻 愛媛大学, 南予水産研究センター, 特定研究員 (10824138)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 浮遊性卵 / 卵黄形成 / ビテロジェニン(Vtg) / 2型Vtgシステム / Vtgプロモーター / エストロジェン応答性配列 / スマ |
Outline of Annual Research Achievements |
硬骨魚類のうち系統進化上、後期に分岐したとされる多くの魚種は浮遊性卵を産する。卵の浮遊性獲得は、卵母細胞に取り込まれた卵黄タンパク前駆物質(ビテロジェニン;Vtg)に起因すると考えられている。Vtgは卵黄形成期の肝臓において雌性ホルモン(エストラジオール-17β; E2)が作用することで合成が促進される。その後分泌されたVtgは、血流を介して卵母細胞に取り込まれ蓄積される。進化が進んだ硬骨魚類は、3型のVtg(VtgAa, VtgAb, VtgC)を持つことが知れているが、そのうち主要な2種類のVtgを卵母細胞内で分解し分けることが卵の浮遊性獲得に繋がる(2型Vtgシステム)。しかし卵母細胞内のVtgサブタイプごとの蓄積比率の調節機構の全貌は未だ解明されていない。これらの蓄積比率の調節の要因の1つは、肝臓におけるVtgサブタイプごとの合成比率の違いによるものと考え検証することとした。 令和2年度では、小型のマグロ類であるスマ(Euthynnus affinis)を対象に成熟雌の肝臓中のvtgサブタイプごとの発現量を比較した。その結果、vtgAaとvtgAbの発現量がvtgCのそれよりも顕著に高かったことから、スマにおいて主要なサブタイプはVtgAaとVtgAbであることが示唆された。また、当研究室のスマゲノムデータベースを利用して主要な2種vtgを検索し、それぞれのプロモーター配列情報を得た。これらの配列よりvtgの発現において最も重要なエストロジェン応答性配列(ERE)並びにERE様配列(ERE-like)を検索したところ、vtgAaプロモーターではEREとERE-likeが1つずつ、vtgAbプロモーターではERE-likeが3つ確認された。現在は、今後行う予定であるレポーターアッセイに向けて両vtgプロモーター配列のクローニングを行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度では、スマの卵巣における2型Vtg量の比較、並びに「2型Vtgシステム」を有する(後期真骨魚類)スマを含む2魚種と系統進化上2型Vtgシステムを獲得する前の「祖先型(前期」の2魚種において肝臓におけるvtg発現量比較を行う予定であった。これらのうち、スマにおける肝臓中のvtg発現量比較は達成した。一方、令和3年度に計画していたスマの2型vtgプロモーター領域のプロモーター活性の比較にはすでに着手している。 令和2年度には新型コロナウィルス感染症蔓延を受けた大学の対応により研究活動の縮小が余儀無くされた。これが本研究活動の遅延の主な原因である。対象魚種のスマのみは当研究センターにおいて周年維持管理をされているために、実験サンプルを獲得するに至った。そのために、令和2年度に予定していた肝臓中vtg遺伝子発現量比較を行い、令和3年度に予定していたスマの2型vtgプロモーター領域のクローニングを先に着手することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、現在行なっているスマの2型vtgプロモーター領域のクローニング、またエストロジェン受容体遺伝子(er)のクローニングを継続し、レポーターアッセイ系の確立を行い、両vtgプロモーターのE2への応答性を確認する。また、他3魚種(マツカワ、ウナギ、カタクチイワシ)も同様にレポーターアッセイ系の確立を行い、主要な2種vtgプロモーターのE2への応答性を確認する予定である。なお、レポーターアッセイの測定については、ルミノメーター有する北海道大学大学院水産科学研究院の海洋動物生殖生化学研究室に訪問して行う予定ではあるが、新型コロナウィルス感染症に国や大学の対応によっては当研究室に委託する可能性がある。 また、スマ以外の3魚種の卵黄形成期の肝臓におけるvtgサブタイプ間の発現量比較、更にはスマの卵巣中VtgAaおよびVtgAbの蓄積量の比較も行う予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度に行う予定であったスマのVtgAaおよびVtgAbの精製および定量、スマ以外の3魚種の肝臓中の主要2種のvtg発現量の測定は未だに行われていないために未使用額が生じた。このため、未使用額はこれら実験を遂行するための経費に充てることとしたい。
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