2021 Fiscal Year Research-status Report
温暖化と海洋酸性化が島嶼河川生態系に与える影響とリスク評価
Project/Area Number |
20K15584
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福森 啓晶 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (60746569)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 両側回遊 / 腹足類 / 浮遊幼生 / 環境変動 / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
地球環境変動が生物に与えるインパクトを把握することは,将来の生態系・環境リスクを評価する上で重要となる.沿岸性底生生物の多くは浮遊幼生期を持ち,石灰化した骨格をもつ海産無脊椎動物では初期生活史における海洋酸性化・地球温暖化への応答について,これまで多くの研究がなされてきた.一方,海洋で生活環の一部を過ごす通し回遊をおこなう河川性無脊椎動物への影響については,ほとんど知見がない.また,成体生息環境である島嶼河川における水温の上昇が各種の分布域拡大や各地の群集構造に与える影響は未知数である.本研究では,海洋でのプランクトン幼生期をもつ通し回遊性無脊椎動物が地球温暖化・海洋酸性化にどのように応答するのかを予測するため,炭酸カルシウムの殻をもつ回遊性貝類をモデル生物群として,飼育実験・生態調査および次世代シーケンサー等を用いた遺伝子解析により検証し,回遊動物の卓越する島嶼河川生態系における将来的な環境リスクを評価することを目的とする.本年度は,亜熱帯(沖縄・小笠原諸島)・温帯地域(九州)の邦産回遊性巻貝類について,採集標本を用い,各地域における各種の分布情報の把握を進めた.また,ミトコンドリア・核遺伝子マーカーを用いて,各種の分散能力を推定した.さらに各地域における出現種数を記録し,死滅回遊記録などの情報をまとめた.幼貝を含む国内外の種について,バーコーディング解析を進め,リファレンスデータを蓄積した.幼生飼育により,各種の初期生活史における至適環境条件を検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,主に南方系種の分布情報の把握,広域分布種におけるDNAマーカーを用いた集団遺伝学的解析,飼育観察による初期生活史の検討を行った.その結果,南方系種の分布には特に水温と海流が重要な規定要因として影響することが推定された.また,回遊性アマオブネ科貝類の多くの種で地理的遺伝構造は確認されず,日本集団の維持には南方西太平洋域集団からの幼生供給が重要であることが示唆された.各種幼生の成長には,水温等の環境要因が影響することが判明した.一方で,緊急事態宣言等の影響により,特に離島地域における野外での調査が予定通り実施できておらず,幼生飼育などの研究計画にやや遅れが生じている.また,論文発表作業が進んでいないため,次年度以降に十分な成果が得られた研究から順次論文を投稿する.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,これまでに得られた結果を基に遺伝子解析・野外生態調査・飼育実験を行う.飼育設備機器の準備が整い次第,各種の環境変動への応答について検討する.また,これまでに引き続き,次世代シーケンサー等を用いた遺伝子解析を進める.野外調査については,成体・幼生を採集し,種判別の難しい個体についてはCOI遺伝子配列を用いた種同定を行い,ライブラリを構築する.得られた研究成果について,順次論文投稿を行う.
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Causes of Carryover |
予定では,生態調査用の旅費に研究費を割り当てていたが,離島地域などにおける野外調査が予定通り実施できておらず,それらの費用分について,次年度使用額が生じた.次年度使用額については,令和4年度に行う実験の消耗品などの物品費および出張旅費としての使用を計画している.次年度以降は安全な実施が可能となり次第,計画通り調査を行う予定である.
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