2020 Fiscal Year Research-status Report
極小の単細胞ピコ藻類における生活史ステージ転換現象の究明
Project/Area Number |
20K15585
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
山田 和正 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 助教 (20778401)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 栄養細胞 / 生活史 / 世代交代 / セルソーター / 増殖 / パルマ藻 / ボリド藻 / 二形態性生活史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,極域や亜寒帯海域での生態学的な重要性が示されつつあるシリカ被殻を持つパルマ藻Triparma属に注目している.本藻類は,生活史中に少なくとも二つのステージ,すなわち,シリカの殻を持ち無鞭毛で不動性の有殻ステージと鞭毛を持ち無殻で遊泳性の鞭毛ステージを持つ.本研究では,両ステージの生理学的な違いとステージ転換の仕組みを理解するため,培養株を用いた解析を進めている. 培養下での両ステージの出現状況を理解するため,同一のパルマ藻種2株を同一培養条件下で継代培養し,各ステージの細胞密度の推移を約130日間モニタリングした(n=3).その結果,片方の株には,培養期間を通して有殻ステージのみが存在し鞭毛細胞は出現しなかったが,もう一方の株には有殻ステージと鞭毛ステージが常に混在し,どちらのステージも対数増殖を示した.培養期間中の鞭毛ステージの存在比率は0.2~3.9%と常に有殻ステージより割合が低かった.以上の結果から,実験に用いた培養条件下では,ステージの転換は誘導されず,各ステージは独立に分裂で増殖していると考えられた.現在,各ステージを単離した培養を進めており,今後の遺伝子発現解析等の材料とすることを計画している.また,鞭毛ステージの割合を高める代替の手法として,葉緑体の自家蛍光強度と前方散乱光強度(細胞サイズ)に基づくセルソーティングを試みた結果,鞭毛ステージの割合を分取前の3.5%から 91.7±6.2%(n=3)にまで濃縮することが可能であった. またこれまでの2倍の光強度で両ステージ混在株の培養実験を行った際には,有殻ステージの最大比増殖速度は弱光条件の1.5倍に留まったが,鞭毛ステージの最大比増殖速度は弱光条件の3.2倍にまで高まった(n=3, P< 0.01).今後ステージ間の光強度に対する生理応答の違いを詳しく解析する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,パルマ藻の生活史の実態,具体的には,各生活史期の適応環境と遺伝子発現パターンの違いの解明を目指している. 本年度は両ステージの細胞増殖プロファイル等の基礎的な情報取得を進め,翌年度の遺伝子発現解析に向けた培養株や培養条件の検討を行った.ステージ転換を起こさずに各ステージを独立に培養することが可能と考えられる継代培養条件を得た他,セルソーターを用いて遺伝子発現解析用の材料を効率的に得ることが可能となった.また,ステージ間で増殖に適した光強度が異なる可能性が示され,新たにステージ間の生理学的な違いに関する情報が得られた. これらの理由から,研究の進捗はおおむね順調であると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
有殻ステージ・鞭毛ステージそれぞれに特異に発現している遺伝子を明らかにするため,各ステージのRNA-seq解析を実施する.また,本年度の培養実験の結果,光強度に対する増殖応答性にステージ間での違いがあることが示唆されたことから,当初予定していた培養生理実験に,光強度に対する生理応答の比較解析を追加する.
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症拡大の影響で国際学会等への出張のための出費がなかったため未使用額が生じた。一方で本年度の実験により新たに培養生理実験を追加する必要性が生じたため、実験に用いる器具・試薬等を新たに購入することを計画している。
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Research Products
(3 results)