2021 Fiscal Year Research-status Report
イルカの胃病変にヘリコバクター属細菌は関与するか?ーVacAを指標に-
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20K15598
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
瀬川 太雄 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (50755600)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イルカ / ヘリコバクター / VacA |
Outline of Annual Research Achievements |
イルカにおいて胃潰瘍等の胃病変は難治性疾患の一つであり,その原因としてヘリコバクター属細菌の関与が長年疑われている.これまでにイルカは Helicobacter cetorum(HC)および応募者が発見したHelicobacter delphinicola(HD)に感染することが明らかになっているが,未だにイルカの胃病変発生に関わるか明らかになっていない. 応募者のこれまでの解析によりHCおよびHDは,胃病変を惹起する物質であるVacAと類似した物質を産生することが確認されている.しかし,HCに関しては胃疾患症状のないイルカ類においても保菌率がほぼ100%であることから,HCが産生するVacA様毒素に対してイルカ類は感受性を示さない可能性がある.そこで2021年度は,イルカ類がHC産生のVacA様毒素に対する受容体を保有するか調査した.まずイルカ由来腎培養細胞にHC産生VacA様毒素を暴露すると,明瞭な細胞死が確認された.この結果よりイルカはHC産生VacA様毒素に対する受容体を保有することが明らかになった.次にその受容体の同定を試みたところ,ピロリ菌と同様の受容体を介して毒素活性を示すことが明らかになった.今後は,本受容体がイルカ類の胃内に存在するかを解析する予定である.またHDの全ゲノム解析を行ったところ,VacA様遺伝子は確認されたが,そのゲノム上の位置関係はピロリ菌やHCと大きく異なっており,HDにはHCには認められないいくつかの分泌機構や細胞接着機構が存在していた.今後,これらの機能を明らかにしていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書では,HCおよびHD産生VacA様毒素に対する受容体はアフリカミドリサルの培養細胞等,イルカ類以外の培養細胞を用いて受容体を同定し,イルカ類からクローニングした本受容体をVacA様毒素非感受性細胞に強制発現させ,これにVacA様毒素を暴露することで,イルカ類がVacA様毒素に感受性を持つ受容体を有するか検討していく予定であった.本研究はイルカ類の培養細胞があれば直接的に評価が可能で,より正確なデータを得れるが,研究計画当初に長期的に利用できるイルカ類の培養細胞が存在しなかったため,上記のような計画にせざるを得なかった. このような現状の中,応募者が昨年着任した日本大学生物資源科学部獣医衛生学研究室には長期的に利用可能なバンドウイルカの腎由来培養細胞が樹立されていた(未発表データ).そこで本培養細胞を用いてVacA様毒素の毒性評価ができたため,クローニングや強制発現等をせず,感受性の評価ができた.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討によりイルカ類はHC産生VacA様毒素に対する受容体を有することが明らかになった.そこで次年度はイルカ類の胃内における本受容体の存在をリアルタイムPCRおよび免疫染色により評価する予定である.またこれと並行して胃内におけるHCの局在も同様の手法で明らかにしていく予定である. HDに関しては全ゲノムで予想された機構の機能解析を行い,イルカ類との関係性を明らかにしていく予定である.
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Causes of Carryover |
(理由):申請書では,HCおよびHD産生VacA様毒素に対する受容体はイルカ類以外の培養細胞を用いて受容体を同定し,イルカ類からクローニングした本受容体をVacA様毒素非感受性細胞に強制発現させ,イルカ類がVacA様毒素に感受性を持つ受容体を有するか検討していく予定であった.だが,応募者が昨年着任した日本大学生物資源科学部獣医衛生学研究室には長期的に利用可能なバンドウイルカの腎由来培養細胞が樹立されており,本培養細胞を用いてVacA様毒素の毒性評価ができたため,クローニングや強制発現等をせず,感受性の評価ができ,クローニングや強制発現に関わる試薬類の購入が不要になったため. (使用計画):HDの全ゲノム解析から予想された機能検証に関わる試薬類の購入に使用する予定.
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