2021 Fiscal Year Research-status Report
ヒトデ幼生の自己・非自己認識に関わる種特異的糖鎖の探索
Project/Area Number |
20K15602
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
古川 亮平 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (90458951)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 棘皮動物ヒトデ / 幼生 / 自己非自己認識 / 種特異的糖鎖 / 免疫 / 精子 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の先行研究により、棘皮動物イトマキヒトデの幼生において唯一の免疫細胞である間充織細胞が、同種異個体のみならず本来幼生の体内に存在しない精 子であっても、生きた同種の細胞であれば免疫応答を生じない「missing-species(種の喪失)認識」によって自己と非自己を識別している可能性が示唆されている。この認識システムを可能にするには、自己マーカーに相当する種特異的な分子の存在が必要であるが、予備データからこの分子が何らかの糖鎖であることが示唆されていた。本研究は、イトマキヒトデの精子を材料に、幼生のmissing-species認識を可能にする種特異的な糖鎖を探索し、その単離・同定を目指すものである。 今年度はまず、各種レクチンを用いたスクリーニングの再現性の確認を行った。昨年度と同様、各種レクチンを結合させた生きた精子を幼生体内に顕微注射し、 間充織細胞による貪食作用の有無を調べた。昨年度はConA結合精子に対する貪食作用の増強が認められたが、コントロールと比較して統計的に有意な差は得られなかった。同様に、その他のレクチンで染色した精子を用いた場合においても貪食作用が認められるケースもあった。従って、レクチン染色時の操作による精子の生存率の低下によって、死細胞に対する免疫応答の活性化として検出された可能性が排除できない。一方、各種糖鎖切断酵素で処理した精子の生存率も高いとは言えず、昨年度に引き続いて条件検討は難航している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
レクチン染色、酵素処理共に、精子の生存率を低下させない条件検討が難航していることによる。また、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの消耗品や試薬類の大幅な納品遅れも頻出し、イトマキヒトデの生殖シーズン中に十分な実験を行うことも困難であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、幼生のmissing-species認識を可能にする種特異的な糖鎖を探索するものであり、研究計画では簡便且つ大量に得ることができる精子を材料とした計画で進めている。しかしこれまでのところ、レクチン染色や酵素処理を施した精子を幼生体内に顕微注射するまでの間に、精子の生存性が低下する可能性が浮かび上がってきている。本研究で探索している種特異的な糖鎖は、それをブロックすることで幼生の免疫細胞による貪食作用を亢進するような物質であるため、材料としての精子は必須ではない。そこで今後は、材料を精子だけでなく、免疫細胞自体も材料として、レクチン染色や酵素処理が貪食作用に及ぼす影響を調べていく予定である。また、処理済みの精子の顕微注射ではなく、レクチンや酵素と精子を同時に顕微注射することも試みる。 さらに、今年度入手できなかった糖鎖補足ビーズを用いて、酵素処理によって精子から遊離させた糖鎖を結合したビーズを作製し、これを材料とした解析も行う予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症による消耗品等の大幅な納品遅れが複数発生し、イトマキヒトデの生殖シーズンに十分な実験ができず、実験条件の検討も難航した。 今年度は、戦略を変え、精子だけでなく幼生の構成細胞や成体の細胞も材料として想定しているため、生殖シーズン外でも研究を行うことができる環境を整えている。また、消耗品類もすでに多数発注済みである。
|
Research Products
(2 results)