2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K15630
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
村上 貴一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター, 研究員 (50813903)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 越冬性 / コムギ / 光環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
波長依存的な透過特性を示す積雪は、地表面で越冬する植物に到達する太陽光のスペクトルを変質させることで植物の生理諸反応に影響を及ぼす光質制御資材として作用する可能性がある。本研究では積雪の光質制御資材としての特性とその利用可能性を評価することを目的とした。本年度は雪質および密度の経時的変化に応じた分光透過特性の評価と冬季屋外での電照による光質制御実験を反復した。 積雪の透過率には雪質・密度・波長の3要因がいずれも影響し、400-700 nmの範囲では積雪1 cm あたりの透過率は高くとも80 %程度であった。15 cmの積雪のもとでは、地表面へ到達する太陽光はおよそ1 % まで減衰するが、この量は弱光に応答する光受容体を介した諸反応を誘導するには十分である。とくに融雪期の積雪は、粒径が大きくなり氷に近い雪質に変化することで透過率が高くなるため、春が近い地表面は比較的明るい条件にある。積雪の分光透過スペクトルは雪質・密度によらず600 nm付近にピークを持つ単峰性であり、とくに光受容体phytochromeが感知する赤色光(R)/遠赤色光(FR)比を低下させる。以上の特性を踏まえ、低温下でのR/FR比が典型的な雪下越冬性の作物であるコムギの生育に及ぼす影響を評価する実験を実施した。R/FR比を制御した低温室内実験および雪上からのR・FR電照により積雪下のR/FR比を制御した冬季屋外実験ともに、コムギの生存率・茎数に顕著な光質応答は認められず、光質による影響は品種間差と比較して小さかった。したがって、実験に供試した近年の北海道で栽培される主要な秋まき・春まきコムギ品種に関しては、積雪による光質制御が生育に著しい影響を及ぼす可能性は小さい。以上のように、積雪はその分光透過特性から光質制御資材として作用しうるが、圃場スケールで作物生産性に及ぼす影響は比較的小さいと推察される。
|