2020 Fiscal Year Research-status Report
犬メラノーマ組織の代謝環境が細胞傷害性T細胞にもたらす影響の網羅的解析
Project/Area Number |
20K15680
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
伊賀瀬 雅也 山口大学, 共同獣医学部, 助教 (70847110)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 犬 / メラノーマ / 低酸素 / 解糖系 / 免疫療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
メラノーマに対する新規治療法として、免疫チェックポイント分子阻害療法が注目されているが、完全に腫瘍を退縮させるには至らず、その原因の究明と打開策が求められている。腫瘍局所は、不完全な血管新生や腫瘍細胞の代謝亢進により、低酸素・低栄養状態になっており、免疫細胞に対して負の影響を与える。そこで、近年、腫瘍の代謝を標的とする治療法の開発が注目されているが、臨床応用されているものは少ない。本研究では、犬のメラノーマの代謝環境と免疫細胞の関係性を解析し、代謝制御による新規免疫治療アプローチの開発を目指す。今年度は、犬メラノーマの腫瘍組織の代謝環境の解析と各種免疫細胞(CD3, CD8, Foxp3)の分布を詳しく調べた。また、健常犬の末梢血由来リンパ球を分離し、低酸素や低グルコース環境に曝露させた場合の活性化を評価した。まず、本学附属動物医療センターに来院されたメラノーマ症例犬より腫瘍組織の一部を採取し、パラフィン包埋後、低酸素マーカーであるHIF-1alphaやGLUT1などの分子に対する抗体を用いて免疫組織化学染色(IHC)を実施した。その結果、低酸素マーカーが高発現している症例と低発現の症例を分けることが可能であった。また、抗腫瘍免疫に関連するT細胞のIHCでは、症例を腫瘍組織内への浸潤と、腫瘍周囲への浸潤、浸潤なしの3つのタイプに分けられた。これは、人のメラノーマ組織における免疫細胞浸潤の分類と類似していた。次に、健常犬のリンパ球を低酸素あるいは低グルコースの培養環境において、活性化刺激を行い、細胞増殖やインターフェロンγの産生を評価した。その結果、低酸素では特に違いが認められなかったが、低グルコースにした場合にリンパ球の活性化が低下することが明らかとなった。そのため、腫瘍の解糖系が亢進すれば、腫瘍局所に浸潤しているリンパ球の活性化にも影響を及ぼす可能性が推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、健常ビーグルにがん抗原をワクチンし、そのがん抗原特異的リンパ球を用いた解析を予定していたが、コロナ禍の状況でスタッフの確保が難しく、計画の変更を余儀なくされた。そこで、リンパ球の活性化方法を、既報のさまざまな刺激分子や薬剤に変更し、研究を遂行した。リンパ球に対する生体内の自然な刺激とは異なるが、仮説に基づいた結果が得られている。 一方で、腫瘍組織の解析は順調に進んでおり、免疫細胞と代謝環境の関係性について明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
腫瘍組織のIHCの結果について、代謝と免疫細胞の分布の統計学的解析を実施する。 人においては、低酸素環境によって腫瘍細胞の解糖系が亢進することや免疫細胞の活性化に負に働く分子(サイトカインやVEGFなど)が産生されることが報告されている。今年度の研究結果から、犬メラノーマ組織が低酸素状態にある場合に、解糖系の亢進と免疫細胞の浸潤が変化することが明らかとなった。そこで仮説として、犬メラノーマ細胞が低酸素の状態になった場合に、グルコースの消費だけでなく、免疫を負に制御する分子を発現していると考えた。この仮説を実証するために、犬のメラノーマ細胞株を低酸素培養し、培養液中のグルコース濃度と培養上清中に産生される分子の網羅的遺伝子解析を実施する。
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Causes of Carryover |
今年度の当初の計画では、実験ビーグルを新たに購入し、がんワクチンを実施する予定であったが、コロナ禍の影響で、スタッフの確保や時間の確保が困難であったため、実験計画の変更を行なった。またビーグルについては、動物病院で飼育している犬をボランティアで利用することができたため、犬の購入費およびスタッフへの謝金を請求していない。また、実験計画を変更することで、網羅的遺伝子解析の実施が遅れているため、次年度の実施になった。すでに細胞等の準備はできており、研究期間内の遂行に問題はない。さらに、学会がオンラインになったため、旅費の請求もなかった。次年度は、犬メラノーマ細胞が低酸素の状態になった場合に、グルコースの消費だけでなく、免疫を負に制御する分子を発現するという仮説の実証に向けて、犬のメラノーマ細胞株を低酸素培養し、培養上清中に産生される分子の網羅的遺伝子解析と当初の予定にある犬メラノーマ症例由来サンプルの解析を実施する。
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