2021 Fiscal Year Research-status Report
ラットの着床前胚におけるミトコンドリア活性に関する研究
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20K15702
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
中村 和臣 鳥取大学, 医学部, 特命助教 (90598137)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アポトーシス / ラット着床前胚 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
体外培養したラット着床前胚は、仮親の子宮に戻した後(着床後)の発生が低下する。本研究の目標は、体外培養したラット胚の着床後の発生の抑制原因の解明であり、将来的に、着床後の発生が抑制されることのない新たな体外培養法の確立に繋げたい。研究代表者は、網羅的遺伝子発現解析(科研費18K14613の研究成果)によって、ラットの体外発生胚においてアポトーシス関連遺伝子の発現に変動があることを突き止めていた。さらに、本課題の前年度の研究成果において、TUNEL解析により、体内発生胚と体外培養胚では、アポトーシスプロファイルが明らかに違っていることがわかった。これらのことから、令和3年度は、アポトーシス進行の差異を生む原因となる遺伝子を特定するために、qPCRによる遺伝子発現解析を主に行なった。アポトーシスの進行経路は、外部からのリガンド刺激を介してアポトーシス執行分子(カスパーゼファミリー)に伝達する経路と、ミトコンドリア膜透過性の変動によるシトクロムcの放出がカスパーゼに伝達する経路(ミトコンドリア経路)の、大きく分けて二つがある。網羅的遺伝子発現解析の結果等を勘案し、ミトコンドリア経路に関連する遺伝子をターゲットとして解析を行なった。その結果、Bcl2ファミリーメンバーの遺伝子発現が、体外培養胚において亢進していることがわかり、さらに、ゲノム編集によりこれらの遺伝子をノックアウトすることによって、体外培養胚におけるアポトーシスプロファイルが体内発生胚と同程度に復帰することがわかった。これらのことから、体外培養胚におけるアポトーシス異常を起こす原因遺伝子が明らかになった。ただし、これが本課題の目的である「体外培養したラット着床前胚の着床後発生の抑制原因の解明」に直結するかどうかについては、今後、検証が必要である。なお、これらの研究成果は、令和4年度に論文発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
体外培養したラット着床前胚のアポトーシス進行に異常をもたらす原因遺伝子の特定に至り、さらなる検証が必要であるとは言え、本課題の目標である「体外培養したラット着床前胚の着床後発生の抑制原因の解明」に一歩近づいた。初年度に、アポトーシス異常の関連性を探る目的として、ミトコンドリア膜透過性遷移を検出するプローブを使ってラット胚の染色を試みていたが、令和3年度に特定したアポトーシス異常の原因遺伝子は、ミトコンドリア膜透過性遷移を担う遺伝子そのものであった。このことにより、体外培養胚におけるアポトーシス制御において、ミトコンドリア依存性アポトーシス経路が重要であることがわかった。さらに、そのトリガーとなっているのがミトコンドリアにおけるエネルギー代謝異常ではないかと予想しており、ミトコンドリアのエネルギー代謝とアポトーシス異常の関連性に迫っている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究成果において、体外培養胚のアポトーシス異常をもたらす原因遺伝子が特定できたため、この遺伝子の発現を指標として、さらに上流のアポトーシス異常のトリガーを探索する。アポトーシス異常のトリガーとして、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝異常が関与しているのではないかと疑っており、この関連性を明らかにしたい。例えば、糖代謝関連遺伝子などの過剰発現やノックアウトにより、体外培養胚においてアポトーシス異常の指標遺伝子が変動するかを検討する。この解析結果と、現在樹立中のFRET based ATP indicatorラットによる、体外培養胚のATP産生プロファイルを照合してみたい。
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Causes of Carryover |
遺伝子工学実験用のプラスチック製品を購入予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、令和3年度に納品が不可能だったため、翌年度に繰り越すことになった。令和4年度に、当初予定していたとおり、遺伝子工学実験に使用する物品の購入費に充てる。
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