2021 Fiscal Year Research-status Report
コアプロモーターを介した配列特異的な転写動態制御機構のライブイメージング解析
Project/Area Number |
20K15710
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
余越 萌 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (80791938)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コアプロモーター / エンハンサー / 転写制御 / ハエ初期胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAからタンパク質の設計図となるmRNAを合成する転写反応の制御において中心的な役割を担うのは、コアプロモーターやエンハンサーと呼ばれるゲノム中の調節領域である。エンハンサーは転写活性のON/OFFを切り替えるスイッチとして、個体発生における遺伝子発現を時空間的に制御している。一方で、コアプロモーターはエンハンサーからの転写活性化の合図を受け取り、遺伝子発現を開始する役割を担っている。重要なことに、エンハンサーは標的遺伝子から「転写バースト」と呼ばれる不連続な転写反応を誘導することが知られている。しかし一方で、転写バースト制御におけるコアプロモーターの役割はこれまで十分に理解されてこなかった。 そこで、本研究では、転写制御におけるコアプロモーターの働きを生きたショウジョウバエ初期胚において直接可視化するライブイメージング技術を新たに開発した。詳細な定量画像解析の結果、エンハンサーとは独立して、コアプロモーター自身も転写バーストの制御において重要な役割を担うことを新たに見出した。さらにゲノム編集を用いて内在遺伝子のコアプロモーターを改変したところ、転写バーストの制御が大きく乱れ、形態形成異常を引き起こすことが明らかにした。以上の成果は、論文として発表し(M Yokoshi et al., Nucleic Acids Research, 2022)、将来的には遺伝子発現制御における基本原理の解明に留まらず、疾患の原因となるコアプロモーター変異の同定や、新規医療技術の開発に向けた基盤的知見となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、MS2/MCP転写ライブイメージング技術を用いて、転写バースト制御におけるコアプロモーターの働きを、生きたショウジョウバエ初期胚で可視化する新たな実験系を開発した。人工的に設計したコアプロモーター中の配列エレメントを改変したショウジョウバエ系統をシステマティックに作製し、転写動態の変化を1細胞レベルで定量解析した。その結果、全く同じエンハンサーの制御下にある場合においても、たった数塩基程度のコアプロモーター配列の違いによって、転写バースト活性が大きく変化することを明らかにした。特にTATAは転写バーストの振幅を増大させる役割を担っている一方で、InrやMTE、DPEは、主に転写バーストの頻度の調節に寄与しているという役割の違いが存在することを初めて解明し、論文として発表した(M Yokoshi et al., Nucleic Acids Research, 2022)。
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Strategy for Future Research Activity |
さらに本研究では、解析から得られた実験結果の普遍性を検証するため、fushi tarazu(ftz)と呼ばれる初期発生に必須な分節遺伝子をモデルとして、内在遺伝子座におけるコアプロモーターの詳細な機能解析を行った。ゲノム編集技術を用いてftzのコアプロモーター領域を特異的に改変したところ、TATAやDPEが転写バーストの振幅や頻度を異なる形で調節していることを明らかにした。今後、ゲノム編集を用いて本来TATAを持たない遺伝子に人為的にTATAを付与し、どのように発現動態や発生プロセスに影響を及ぼすのかを詳細に解析することで、コアプロモーター配列自体が持つ進化的意義に迫れるのではないかと期待している。
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Causes of Carryover |
論文のリバイス実験が想定よりも少なかったため、未使用額が生じた。 このため、新たな実験での解析とシンポジウムでの発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとした。い。
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