2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K15728
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
志甫谷 渉 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30809421)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロドプシン / X線結晶構造解析 / クライオ電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年発見されたロドプシンの一群に、酵素型ロドプシンがある。C末端側にリンカー部位でつながった酵素ドメインを持ち、光に依存して酵素活性を示す。現在発見されている酵素型ロドプシンはcGMPを産生するRh-GCと、逆にcGMPやcAMPを分解するRh-PDEが存在し、共に細胞内の二次メッセンジャーを制御する光遺伝学ツールとしても着目されている3)。興味深いことに、配列解析から酵素型ロドプシンは共通して8回膜貫通型であることが予測されているが、その真偽や機能的意義は不明だった。 我々はX線結晶構造解析によってRh-PDEの膜貫通領域+リンカー部位の構造を決定した。Rh-PDEの膜貫通部位には、予測通り、通常のロドプシンで見られるような7回膜貫通部位と細胞外ループを通してつながったTM0が存在していた。TM0を欠失させたRh-PDE変異体は、野生型に比べて低い発現量や光活性を示した。このことから、TM0は発現量や光活性に大きな役割を果たしていることが示唆された。膜貫通部位は、結晶構造中ではTM1と7を界面とする二量体を形成しており、TM7から真っすぐヘリックスが伸びてリンカーになっていて、互いに交差していた。結晶構造ではリンカー部位は約半分しか見えていなかったので、リンカー部位全体をRosettaおよびaMDシュミレーションを用いて構造予測を行った。予測構造では、リンカー部位は3本のヘリックスからなり、結晶構造で観察できた領域の構造は一致していた。さらに全長Rh-PDEの高速AFM観察を行い、膜貫通領域と酵素ドメインがそれぞれdimerを形成していることや、その重心間の距離が約10Åであることが明らかになった。この観察結果を踏まえて、Rh-PDEの全長構造のモデルを構築し、TM7の構造変化による光活性化メカニズムを提唱した。これらの結果をまとめて論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
酵素型ロドプシンの構造研究は, 国外グループもとり組んでおり学会発表もある。そうしたグループは構造解析に資するレベルでの全長や膜貫通領域の精製には成功していない。酵素型ロドプシンは界面活性剤中で安定性が低く、構造解析の挑戦度が高い標的分子である。申請者はGPCRの構造研究で培った精製技術を応用し, 界面活性剤を精製途中で安定なものに変えることで, 機能的に全長および膜貫通領域の精製・結晶化に成功し構造を報告した。また、Rh-PDEの膜貫通領域からリンカー領域が伸びた構造も決定し、計算機シュミレーションによるリンカー領域のモデルや高速原子間力顕微鏡観察によって、Rh-PDE全長のモデルを構築することに成功した。これは当初の予想以上の成果であり、微生物型ロドプシンの多様性を広げることができた。 また、本研究では新奇ロドプシンであるシゾロドプシン(SzR)のX線結晶構造解析に成功した。SzRは、アスガルド古細菌で発見された新しいロドプシンファミリーである。SzRは、細菌のキセノールロドプシンと同様に、光駆動の内向きH+ポンプとして働く。E81は内向きのH+放出に必須の役割を果たしているが、他のH+ポンプとは異なり、H+はこのようなH+アクセプターにmetastableに留まることはない。我々はSzRの構造を決定し、SzRはヘリオロドプシンではなく、バクテリオロドプシンの構造とよく重なっており、SZRがタイプ1ロドプシンに分類されることを明らかにした。また、膜貫通部のヘリックス2、6、7の細胞質部分が他の微生物のロドプシンに比べて短いため、E81は細胞質近くに位置し、光による構造変化で容易に溶媒にさらされる。SzRでは、H+は、網膜のシッフ塩基から細胞質への水を媒介とした輸送ネットワークを通じて、E81の側で放出されることを提唱した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、光遺伝学で使われているRhGCの構造解析および、酵素型ロドプシン全長の構造解析に挑む。既にる粘菌由来RhGCを哺乳細胞に大量発現させて精製することに成功している。X線結晶構造解析によってRhGCの膜貫通領域の構造を決定している。これらの構造から、RhPDE(二量体)とRhGC(単量体)での量体数の違い、予想されていた8本目の膜貫通ヘリックスの存在(TM0)などの酵素型ロドプシン特異的な構造的特徴について明らかになりつつある。しかし、酵素ドメインを含んだ状態で構造決定できていないため、光依存的な構造変化や酵素活性制御メカニズムも部分的な推察にとどまっている。 そこでRhPDE、RhGCの全長構造をクライオ電子顕微鏡による単粒子解析によって決定する。らに、光を当てるものと当てないものとの両者の違いを比較して、光による酵素活性の調節機構を解明する。既にクライオ電子顕微鏡TALOSを用いて撮影し、暗状態の酵素型ロドプシンの二次元平均像を得ることに成功している。今後は、基質ミミックなどを加えて状態を固定化し全長構造を4Åを超える分解能で構造決定する。さらに、RhPDE, RhGCの構造を特異的に認識する構造認識抗体の取得に成功しており、分子量を大きくすることによって構造解析の成功率を上げる。低分解能でしか構造決定できない場合は、高分解能のTMDや酵素ドメインの構造をフィットすることで全長構造モデルを作成する。
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Causes of Carryover |
コロナの影響でX線回折実験のためのSPring-8出張や学会発表がすべてなくなり、出張費用が全てなくなった。さらに、コロナの影響で大学が閉鎖された結果、実験ができなくなり、消耗品として計上する費用が減ってしまった。さらに、購入を予定していた機器が値上がりした結果、この予算では購入が難しくなってしまい、次年度使用額が生じた。今年度は、次年度使用額をPCR装置またはインキュベーターなど、本研究の遂行に必要不可欠で予算内で購入可能な機械を購入するとともに、研究遂行のための界面活性剤や培地、アフィニティ樹脂の消耗品代として計上する。予算を無駄なく使用して、本研究をよりよく遂行するのに尽力していきたい。
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Research Products
(2 results)