2020 Fiscal Year Research-status Report
ホスファチジルセリン脱炭酸酵素による生体膜リン脂質生合成機構の構造生物学的解明
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20K15734
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
渡邊 康紀 山形大学, 理学部, 講師 (30772636)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ホスファチジルセリン脱炭酸酵素 / X線結晶構造解析 / リン脂質代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞やオルガネラが正常に機能するには多くのタンパク質の機能の場となる生体膜を構成するリン脂質の組成が正しく保たれていることが重要である.生体膜主要リン脂質であるホスファチジルエタノールアミン (PE) は前駆体リン脂質であるホスファチジルセリン (PS) からホスファチジルセリン脱炭酸酵素 (PSD) により生合成されるが,その詳細なメカニズムは明らかになっていない.本研究では大腸菌由来PSDに着目し,構造生物学的手法を用いたアプローチによりPE生合成メカニズムの解明をめざした. 令和2年度は大腸菌由来PSDの結晶を得ることに成功した.大型放射光施設SPring-8にてX線回折データを収集し,その結晶構造を決定した.PSDのフォールドの中心には正電荷が優勢なポケットを形成していた.さらにPEとの反応中間体状態の結晶を作製し,構造決定した.結晶中では,PE頭部はPSDの正電荷ポケット底部において結合していた.構造に基づいた変異体解析から,PS頭部の認識に関与する保存されたTyr137およびHis144がPSDの活性に重要であることが明らかになった.また,PSDのN末端には疎水性のヘリックス領域が自身の膜への結合に重要であることが分かった.以上のことから,PSDはN末端側のヘリックス領域を介して膜に結合し,負電荷を持つPSの頭部を正電荷が優勢な基質結合ポケットに引き込むことで脱炭酸反応を促進するというPE生合成のモデルを構築した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であったPSDによるPE生合成メカニズムはその立体構造から明らかになりつつあり,PSDによる基質認識メカニズムと膜結合メカニズムを明らかにした論文は令和2年度に発表した(Watanabe et al., Structure 2020).以上のことから当初の計画以上に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
PSDは前駆体として翻訳された後,Ser254を活性中心としたセリンプロテアーゼ様の自己プロセシング反応によりα, βの二つのポリペプチド鎖に分かれ成熟体となる.この反応の過程でα鎖のN末端に活性中心となるピルボイル基が形成され,PS頭部のアミノ基とシッフ塩基中間体を形成することで,脱炭酸反応が進行する.しかし,PSDの自己プロセシングメカニズムの詳細は明らかになっていない.令和2年度には、PSDの立体構造から基質認識および膜結合メカニズムを明らかにした.今後は,PSDの自己プロセシングメカニズムを構造生物学的アプローチにより明らかにする.PSDのSer254をAlaに置換したS254A変異体は自己プロセシングが起こらず,前駆体として調製できる.S254A変異体の立体構造解析を行い,自己プロセシング反応前の構造を明らかにすることで,自己プロセシング反応の詳細な分子メカニズムを解明することをめざす.
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Research Products
(5 results)