2021 Fiscal Year Research-status Report
内在性レトロウイルスが駆動する遺伝子発現制御ネットワークの生理機能の解明
Project/Area Number |
20K15767
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 潤平 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (20835540)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生殖細胞 / 遺伝子発現制御ネットワーク / トランスポゾン / 内在性レトロウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
内在性レトロウイルス (endogenous retrovirus; ERV) は自身の配列中に転写調節エレメントを含んでおり、近傍の遺伝子の発現に様々な影響を与える。申請者らは、公的データベースに蓄積した1細胞・マルチオミクスデータの大規模な再解析を行い、生殖細胞の一種であるヒト始原生殖細胞において、一部のERVがエンハンサーとして著しく活性化していることを明らかにした。同定されたERV由来エンハンサーの多くは、ヒト上科(ヒト、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル等)と旧世界ザル(カニクイザル等)の分岐後に、ヒト上科特異的に獲得されたことが明らかとなった。さらに、ヒトとカニクイザルの比較トランスクリプトーム解析の結果から、ERV由来エンハンサーの獲得により、始原生殖細胞の遺伝子発現パターンがヒト上科の進化過程により大きく変化した可能性が見出された。 ERVはヒト集団形成後においてもゲノム内で活発に増殖したため、ERVの挿入にはヒト個人間において組込み多型が存在する。2021年度には、ヒトゲノム配列の大規模な再解析を行うことで、始原生殖細胞においてエンハンサーとして働くERVの挿入の一部に、組込み多型が存在することを明らかにした。この結果は、生殖細胞形成において非常に重要であるはずの遺伝子発現制御ネットワークの一部が、ヒト個体間で異なっている可能性を示唆する。生殖細胞におけるこのような遺伝子発現制御ネットワークの差異は、配偶子形成能の個人差のような重要な形質と関連がある可能性があるため、今後さらなる調査が必要である。以上の研究成果を論文としてまとめ、PLoS Genetics誌に上梓した (Ito et al., PLoS Genetics, Accepted)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、生殖細胞の一種である始原生殖細胞の遺伝子発現制御におけるERVの重要性を描出することができた。また本研究成果をまとめた論文は、既にPLoS Genetics誌において受理されている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までは、エンハンサーとして働くERVの新規挿入が、宿主の遺伝子発現制御ネットワークにおいてどのように機能するか、および、遺伝子発現制御ネットワークをどのように改変してきたか、に焦点を当て研究を進めてきた。2022年度は、このような「ERVの駆動する遺伝子発現制御ネットワークの進化」が、どのような進化原理に基づき進行するか、に焦点を当て研究を進めていく予定である。具体的には、ERVとERVを標的とする転写因子の共進化関係を解明することを目的に、脊椎動物を対象とした大規模な比較ゲノム解析を行う。そして、宿主ゲノムにおけるこれらの共進化関係が、宿主の遺伝子制御ネットワークの進化にどのような影響を与えてきたのか、明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初、RNAシーケンシング解析を今年度に行う予定だった。しかし、論文の査読過程において、当初は予定していなかった大規模なデータ解析(千人ゲノム計画データセットの再解析)を行うことが求められた。そこで計画を変更し、RNAシーケンシング解析よりもデータ解析を優先して行なうこととしたため、未使用額が生じた。RNAシーケンシング解析については次年度行うこととし、未使用額をその経費に充てることにしたい。
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Research Products
(12 results)