2020 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌二重欠失株の網羅的構築による薬剤耐性獲得能を抑制するターゲット遺伝子の探索
Project/Area Number |
20K15779
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
武藤 愛 奈良先端科学技術大学院大学, データ駆動型サイエンス創造センター, 助教 (80730506)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | bar-seq / 薬剤耐性 / 接合伝達 / 大腸菌遺伝子欠失株ライブラリ |
Outline of Annual Research Achievements |
薬剤耐性菌に起因する世界の死亡者数は、2013年には70万人と報告されており、その数は2050年には1000万人に上ると試算されている(O’Neill J., 2016)。本邦においても年間約8000人が薬剤耐性菌により死亡しており(AMR臨床リファレンスセンター資料, 2019)、細菌の薬剤耐性獲得への対策は喫緊の課題である。 本研究では細菌の薬剤耐性獲得を抑制する手法の開発を目指し、大腸菌網羅的遺伝子欠失株ライブラリを用いた抗生物質投与下の適応ダイナミクス解析によって特定された薬剤耐性株の遺伝子欠失変異を、接合を利用した二重遺伝子欠失株の網羅的構築手法によって全ての非必須遺伝子の欠失と組み合わせることによる、細菌の薬剤耐性化獲得を抑止するターゲット遺伝子の探索を目的とした。 令和2年度は、まず抗生物質投与下での適応ダイナミクスデータの解析による、薬剤耐性をもたらす遺伝子欠失変異の検討を行った。その結果、薬剤耐性をもたらす遺伝子欠失変異の特定には、より高濃度の抗生物質下における適応ダイナミクスデータが必要と結論づけ、高濃度薬剤投与実験及び解析を実施した。 高濃度薬剤投与下の混合培養液中の各欠失株ゲノムを次世代シーケンサーで検出することにより、生存している細胞に占める各欠失株の頻度が検出されることを期待したが、検出されたシーケンス情報には大量の死菌由来と思われる配列が含まれていた。そこで、死菌由来のDNAを検出対象から除く手法を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画段階では、それまでに得られていた低濃度薬剤下におけるダイナミクス検出実験において検出された薬剤耐性をもたらす遺伝子欠失について、抑制のターゲットとなる遺伝子の探索を計画していたが、その後の検討により高濃度の抗生物質下における適応ダイナミクスデータが必要であることが判明したため、高濃度薬剤投与実験を実施した。 高濃度薬剤投与実験を実施した当初、Illuminaシーケンサーによるシーケンシングに問題が生じ、シーケンスデータが得られない問題が生じた。条件検討に時間を要したが、DNAのクリーニングの手法を改良したことによりこの問題を解決した。 シーケンシングの結果、死菌由来のゲノムDNAを検出していることが明らかになったため、死細胞ゲノムDNAを除くための条件検討に時間を要した。 また、研究期間の開始早々より新型コロナウィルス 感染拡大防止のための緊急事態宣言によって実験施設での活動が制限されたこと、実験に必要なプラスチック器具の入手が困難になったことにより遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
死細胞ゲノムDNAを除くための方策として、死菌の膜を透過してDNAを修飾することによりPCR増幅を阻害する選択的膜透過性色素(EMA:ethidium monoazide)を利用し、生菌由来DNAを選択的に検出する手法(Nogva, 2003)を検討する実験を実施中である。 また令和3年度より全自動微生物コロニーピッキングシステムが利用可能となったため、高濃度薬剤下サンプリングを行った培養液を寒天培地上に塗布し、得られたコロニーを個別培養したのち混合してシーケンシングを行うことで生存株を検出する手法も検討している。 令和3年度は高濃度薬剤下における適応ダイナミクスデータを得た上で、薬剤耐性をもたらす遺伝子欠失を特定し、抑制のターゲットとなる遺伝子の探索を行う。
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Causes of Carryover |
研究期間の開始当初より、新型コロナウィルス感染拡大防止のための緊急事態宣言によって実験施設での活動が制限されたこと、また実験に必要なプラスチック器具の入手が困難になったことにより、実験に遅れが生じた。その間の検討過程において追加の検証事項が生じたため、研究計画の変更により次年度使用額が生じた。次年度使用額は、当初より予定していた接合伝達による薬剤耐性抑制のターゲット遺伝子探索実験に使用する予定である。
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