2021 Fiscal Year Research-status Report
始原生殖細胞のゲノム安定性を保障するクロマチン制御機構
Project/Area Number |
20K15805
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
巳波 孝至 神戸大学, 理学研究科, 助教 (70834969)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 始原生殖細胞 / クロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
始原生殖細胞は生殖細胞(精子や卵など)の元となる細胞である。始原生殖細胞は形成後、遺伝情報を保持するために大規模な転写抑制状態が保たれる。線虫C. elegansの始原生殖細胞では高密度に凝集した染色体構造が形成される。この転写抑制制御は哺乳類であるマウスではDNAメチル化を主とした制御によって生じるが、線虫ではヒストン修飾依存的な制御によって行われる。よって、線虫始原生殖細胞におけるクロマチン制御の全容を明らかにすることで哺乳類をはじめとした基地の研究とは異なる観点から、始原生殖細胞における遺伝情報を保障するクロマチン制御の種間を通じた性質の理解につなげることが可能であると考えている。 本研究では線虫始原生殖細胞における凝集した染色体構造の形成に必須の因子として、クロモドメイン蛋白質MRG-1に着目した。MRG-1はヒトMRG15蛋白質の線虫ホモログであり、種間で保存されたMRGドメインを介して多様なクロマチン制御因子との相互作用が期待される。本研究では① RNAiスクリーニングを始めとした解析によりMRG-1と協調して機能するクロマチン制御因子を同定し、その機能解析を進めると共に、② 線虫始原生殖細胞における染色体動態のライブイメージング系を作製し、その経時的な変化を明らかとすることによって、線虫始原生殖細胞における高密度に凝集した染色体構造、その形成にかかわるクロマチン制御の理解を深める。 令和3年度は主に①をすすめ、MRG-1と遺伝学的相互作用のあるクロマチン制御因子の同定、また、RNAiスクリーニングの過程でMRG-1が線虫の成長段階の調節にかかわることが示唆されたことから、その詳細を探った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は前年度に引き続き、MRG-1と協調した機能を有する因子を探索するため、体細胞においてmrg-1遺伝子を発現しない変異体を用いたRNAiスクリーニングを実施した。その結果、MRG-1と遺伝学的相互作用する因子としてRNA結合蛋白質LIN-41を見出した。LIN-41はmiRNAの制御を介して、線虫のL4幼虫期から成体期への移行の時間的制御に重要であり、その阻害はdumpy表現型を伴う成長停止となる。一方でmrg-1変異体ではlin-41を阻害しても異常が観察されないことから、MRG-1を介したクロマチン制御がL4幼虫期における成長を正に制御することが示唆された。 さらに、前年度の解析でMRG-1と協調的に機能する因子として同定されたヒストンアセチル化酵素CBP-1について、任意の時期、細胞で発現する実験系を作製し、MRG-1とCBP-1によるクロマチン制御機能の相関性や蛋白質間の相互作用の有無について検証を進めている。 また、性染色体を可視化するためのトランスジェニック線虫について、コンストラクトを作製し導入を進めているが、安定発現する線虫株の単離ができていない。そのため、令和4年度に引き続き線虫株の作製を行い、ライブイメージングを実施する。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は(1)ヒストンアセチル化酵素CBP-1を始原生殖細胞特異的に発現するトランスジェニック系統株を樹立し、始原生殖細胞において、MRG-1とCBP-1が相互作用するのか、また、CBP-1の過剰発現、ドミナントネガティブ型の発現系を作製し、MRG-1、CBP-1の機能が始原生殖細胞においてどのように相関するのかを検証する。LIN-41の阻害実験により、MRG-1がL4幼虫期におけるクロマチン制御に重要であることが示唆されたことから、この時期において重要なクロマチン制御因子に候補を絞り、RNAiスクリーニングを実施することで、MRG-1と協調して機能する因子のさらなる同定を目指す。また、線虫の発生段階の制御に関わるMRG-1の生理学的意義を探るためL4幼虫期の線虫からRNAを抽出し、野生型とmrg-1変異体間で比較解析を実施することで、始原生殖細胞とは異なる側面からMRG-1の機能を探る。(2)LacI-RFP/LacO配列システムを利用して、性染色体をレポーター蛋白質により可視化するレポーター型の作製を進める。これにあたり、CRISPR/Cas9システムにより性染色体上にLacO配列を導入する技術を確立する必要があり、昨年度に作製したコンストラクトを利用し、線虫株の単離を目指す。 (1)、(2)の解析について、令和4年度はRNAiスクリーニングの過程で得られた体細胞におけるMRG-1の機能について、原著論文の投稿を進めると共に、始原生殖細胞におけるゲノム安定性についても年度内に成果をまとめ、学会での発表を目指す。
|
Causes of Carryover |
令和3年度の解析ではトランスジェニック線虫株の作製が遅れたことなどから、一部の実験の進捗が遅れた。そのため、当該助成金の次年度使用が必要となった。まず、クロモドメイン蛋白質MRG-1との相互作用因子の探索を実施するにあたって、線虫の大量培養実験に用いる低温振盪培養機を購入予定であったが、年度内に開始することが出来なかった。そのため、費用を繰越し、次年度の解析において機器を購入し実験に用いる。次に、ヒストンアセチル化酵素CBP-1の過剰発現実験などにおける各種ヒストン修飾状態の変化を探るために、ヒストン修飾を認識する各種抗体を購入する。最後に、学会について、オンラインでの実施となったため、出張費として計上していた助成金が未使用となった。繰り越された費用については、次年度の学会参加費、あるいはオンライン学会での発表を円滑に行うため、PCなどの電子機器の購入に充てる。
|
Research Products
(2 results)