2021 Fiscal Year Research-status Report
母性遺伝を保障する葉緑体DNAの「組換え抑制」と「選択的複製」の解析
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20K15812
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
小林 優介 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 助教 (20800692)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 葉緑体DNA / 母性遺伝 / クラミドモナス |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアや葉緑体には独自のゲノムDNAが存在し、細胞核とは異なった複製・遺伝様式を示す。例えば多くの真核生物では、これらのオルガネラDNAは片親からのみ次世代に遺伝する(母性遺伝)。我々は、母性遺伝の分子機構に迫るために同型配偶子生殖を行うクラミドモナスを材料に解析を行う。先行研究で、(1)一対のクラミドモナスの配偶子が接合し、接合子を形成すると約60分後に雄由来の葉緑体DNAが選択的に破壊されること、(2)この雄葉緑体DNAの破壊には、ホメオボックス遺伝子GSP1が駆動する接合子特異的遺伝子発現が必要であることがわかっている。GSP1変異体では、接合子成熟が停止し減数分裂ができず、雌雄が融合したままの栄養二倍体として増殖する。このGSP1変異体の栄養二倍体には、雌雄で等量の葉緑体DNAが存在すると考えられていた(両性遺伝)。しかし我々は、実際にはこの栄養二倍体は数回分裂すると、雄または雌の一方の葉緑体DNAのみが維持されること (ホモプラズミー)を発見した。つまり、片親の葉緑体DNAを分解されることが無くても、葉緑体DNAは一部の葉緑体DNAが何度も鋳型となり複製されることで片親遺伝することが示唆される。以上の結果より我々は、葉緑体DNAの複製が母性遺伝に関与する可能性について研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雌雄の葉緑体DNAにそれぞれ異なる薬剤耐性遺伝子マーカーを導入し、薬剤感受性スクリーニングと薬剤耐性マーカーを標的としたPCR法で、栄養二倍体の葉緑体DNAが雌雄何れの由来か判別できる系を確立した。PCR法では、10万コピーの雄葉緑体DNAに混入した1コピーの雌葉緑体DNAを検出できる。この判別法と昨年度に開発した一細胞単離技術を用いることで、栄養二倍体に持ち込まれた両性の葉緑体DNAのうち片親のみを持ち始める世代数を正確に調べることができるようになった。今後、数理モデルを組むことで、具体的に鋳型となる葉緑体DNAのコピー数を明らかにできると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究で、メチル化された葉緑体DNAは複製鋳型として優先的に選択される可能性が報告されていた。また配偶子成熟においても雌の葉緑体DNAは雄のそれに比べてメチル化修飾をされることが知られている。葉緑体で機能する可能性があるメチル化酵素のパラログは複数存在する。そこで、これらの変異体を用いて葉緑体DNAのメチル化と母性遺伝の関係を調べることにした。メチル化酵素遺伝子の変異体を米国にあるクラミドモナスのラグラインから探索し、当該遺伝子が破壊されたものを単離した。一重変異体では母性遺伝への異常は認められなかったため、それぞれのメチル化酵素に機能的冗長性が存在することが考えられる。今後の解析では、多重変異体を作成し、母性遺伝への影響を調べることが必要である。これらのメチル化酵素遺伝子は、組換えが非常に抑制されたmating-type locusに存在し、さらにそれぞれが近傍に存在している。よって、それぞれの遺伝子破壊株を交雑して多重変異体を作出することは極めて困難だと考えられる。そこで近年クラミドモナスでも応用され始めたゲノム編集技術を用いて多重変異体を作出し、葉緑体DNAのメチル化が複製や母性遺伝にどのように関わるのか調べる。
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Causes of Carryover |
葉緑体DNAの遺伝に関する変異体を単離し、解析を行っている。この変異体からのRNA抽出が難航し、予定していた次世代シーケンス解析が遅れたため、未使額が生じた。現在は原因も特定できたため、令和4年度中に解析費用に充てる。
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