2020 Fiscal Year Research-status Report
色素体核様体の膜アンカーポイントが司る核様体構造と色素体分化の制御
Project/Area Number |
20K15819
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤井 祥 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (20867717)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 色素体分化 / 核様体 / 膜アンカータンパク質 / 葉緑体 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の色素体は,器官や環境に応じて柔軟に分化する。なかでも,未分化な色素体から葉緑体への分化は,チラコイド膜の形成や大規模な遺伝子発現変動を含むダイナミックな過程である。色素体のゲノムDNAは,多数のタンパク質とともに「核様体」という複合体を形成し,膜にアンカーされている。葉緑体分化時には核様体がチラコイド膜上に分散するが,その分子機構及び生理学的機能はよく分かっていない。本研究の目的は,色素体核様体の膜アンカーポイントのダイナミクスとその生理学的な意義を分子レベルで解明することである。 2020年度は,色素体核様体の膜アンカータンパク質であるMFP1,TCP34,pTAC16について重点的に解析した。それぞれの因子を欠損するシロイヌナズナの変異体において,色素体分化時の核様体の形態を高解像顕微鏡により観察し,定量的に解析したところ,mfp1では核様体の表面積が顕著に減少するが,他の変異体では野生株とほとんど変わらないことが分かった。mfp1 tcp34二重変異体を単離し,その色素体核様体を観察したところ,mfp1一重変異体よりも大きな変化はみられなかった。これらの結果は,MFP1が色素体分化時の核様体の分散において中心的な役割を担っていることを示している。MFP1による核様体表面積の拡張の生理学的意義を明らかにするため,mfp1変異体における色素体遺伝子の発現パターンを解析した。黄化芽生えに光を照射したあと,3日間明暗周期下で培養したときのmRNA量の変化を詳細に分析した。その結果,光照射直後は野生株とmfp1の間にほとんど変化がないが,mfp1では2日目以降のmRNA量の周期的な変化が乱れることが明らかになった。この結果は,MFP1による核様体の膜アンカーが,規則的な色素体遺伝子の発現に寄与している可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
色素体核様体の膜アンカーにはMFP1タンパク質が重要であることを示すことができ,その表現形を定量化することにも成功している。MFP1が色素体分化に与える影響は当初の予想よりも穏やかではあったものの,規則的な色素体の遺伝子発現パターンに重要である可能性を突き止めている。また,今後の研究に必要な核様体膜アンカー因子にエピトープタグを付加した形質転換ラインを多数得ることができた。また,色素体におけるタンパク質-DNA相互作用を明らかにするうえで必要な共免疫沈降法も確立しており,形質転換ラインと合わせて今後の研究を推進するうえで強力なツールとなる。このように,色素体核様体の膜アンカー部位の構造と生理学的機能に関する一定の知見が得られており,かつ今後への準備を整えることができているため,研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,MFP1が色素体遺伝子の転写に与える影響を詳細に明らかにするため,色素体RNAポリメラーゼをバイトとしたChIP-seq解析を行う。2020年度中にはmfp1変異体の葉緑体核様体の高次構造を明らかにすべく,成熟葉から単離された葉緑体に対してATAC-seq解析を行ったが,野生株と変異体の間に大きな違いはみられなかった。mfp1の表現型は葉緑体の発達にともなって小さくなるため,妥当な結果であると考えられる。今後は,mfp1の表現型が強くみられる分化初期の葉緑体においてATAC-seq解析を行うことで,核様体におけるDNA-タンパク質相互作用を解き明かす。また,色素体核様体の膜アンカーポイントの構造を分子レベルで明らかにするため,MFP1をはじめとする核様体膜アンカータンパク質をバイトとしたChIP-seq解析やプロテオミクス解析を予定している。 また,2021年度中にMFP1の表現型や生理機能に関する論文を発表する予定であるほか,得られた成果は随時国内及び海外の学会において発表を行う。
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Causes of Carryover |
2020年度は参加を予定していた国際シンポジウムが中止になり,旅費を使用しなかった。 2021年度もシンポジウム・学会等の一部はオンライン開催になると予想されるが,次世代シーケンス解析を複数回行う予定であるため,その費用に充てる。
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Research Products
(3 results)