2020 Fiscal Year Research-status Report
被子植物の受精に必須の“精細胞駆動力”をつかさどる輸送分子の発見とその機能解析
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20K15822
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
元村 一基 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (50844049)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生殖 / シロイヌナズナ / 花粉 / 細胞骨格 |
Outline of Annual Research Achievements |
被子植物の精細胞は、伸長する花粉管の中を通って受精の場へと輸送される。これまで積荷として受動的に輸送されると考えられていた精細胞だが、近年の研究から、独自の駆動力によって受精の場へ自ら移動することが間接的に示唆された。しかし精細胞の駆動力に着目した研究はほとんど例が無く、その輸送に関与する分子も不明である。そこで本研究では精細胞が受精の場へと移動するための駆動力をつかさどる分子の発見と、その輸送の分子メカニズムを明らかにすることを目指している。 研究初年度である令和2年度は、精細胞の輸送状態を詳細に解析するため、精細胞が輸送されない変異花粉管を作出して、その解析を行った。本研究では細胞壁と精細胞の機能との関係性に着目して、細胞壁構成成分であるカロースを過剰に合成する、cals3mという変異型遺伝子を精細胞で発現させた。すると、花粉管中の精細胞の輸送が阻害され、精細胞が花粉管基部付近に留まることが分かった。このように、本研究における非常に重要なツールである、精細胞輸送の変異花粉管作出に成功した。 また、栄養核の輸送異常を示すwit1/wit2変異体において精細胞でcals3mを発現させたところ、花粉管中の3つの細胞核全てが花粉管基部に取り残されることが分かった。予想外なことに、この細胞質に核を持たない変異花粉管は核を持つ花粉管と同様に伸長する能力を持っていた。更に胚珠の位置を認識して方向転換して、雌組織のもとへ辿り着くこともできた。これらの観察結果より、花粉管は伸長中の遺伝子発現に依存することなく、伸長し続け、方向制御する能力を持つことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
はじめの目的である精細胞輸送機構を検証可能な変異花粉管の作出に成功し、様々な実験に使用できる状態であることから、本研究計画は順調に進展しているといえる。 それに加えて、共同研究によって、この花粉管を利用した観察実験を行うことで、花粉管自体のこれまで知られていなかったde novoな遺伝子発現に非依存的な能力も明らかにすることができた。この研究成果は令和3年度、英国Natureグループが発行するオンライン科学誌「Nature Communications」誌で報告見込である。以上のように本研究を基盤とした重要な研究成果を発表することができたことから、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本研究で作出した、精細胞の輸送異常花粉管(SC-cal花粉管)や、花粉管の核である栄養核輸送異常の花粉管(wit1/wit2変異体)などのツールを用いて、詳細な精細胞輸送機構の解析を目指す。 具体的には、細胞内での物質の移動には細胞骨格が関与していることが想定されることから、細胞骨格を介した移動に着目する。精細胞もまるでオルガネラのように花粉管細胞中に存在していることから、細胞骨格がその輸送に関与していることが想定される。 実験方法として例えば、細胞骨格の伸張阻害剤を野生型花粉や前述した変異体花粉に処理して、その後の精細胞や栄養核の挙動を調べることを検討している。他にも、花粉の機能に関与する様々なRNAを生きた花粉管の中で可視化してイメージングを行うことで、これらのRNAや細胞間移行現象が花粉管の挙動にどのように関与するのかについて調査を進める。 これら複数の方向性からなる実験を通じて、精細胞輸送の分子メカニズムを引き続き解析予定である。
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