2020 Fiscal Year Research-status Report
聴覚をつかさどる有毛細胞が置かれる「生理学的環境」の進化発生学
Project/Area Number |
20K15830
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
樋口 真之輔 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (20847131)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有毛細胞 / 平衡感覚 / 膜迷路 / 感覚毛 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物において聴覚と平衡覚を担う感覚器である内耳は、蝸牛管や三半規管など複雑な形態をもつ膜迷路が内リンパという細胞外液で満たされ、そこに感覚有毛細胞が配置された構造をしている。内リンパは特殊な電気化学的組成をもち、有毛細胞が機械刺激を受容するために不可欠な生理学的環境を提供する。ただし、内耳の機能に欠かせない内リンパが脊椎動物の歴史においていかに獲得され、進化してきたかは未解明である。そこで本研究では、感覚器としての内耳の機能に必須な内リンパについて進化発生学的に探究している。 本年度は、内リンパの産生メカニズムを異なる系統間で比較するために、ポンプやチャネルといったイオン輸送体の局在を解析した。まずは羊膜類のなかからマウスとニワトリの比較に焦点を絞り、内耳の組織切片おける in situ hybridization により、内リンパ産生に重要であると考えられる遺伝子発現の比較を試みた。すると、ヒトを含む哺乳類で内リンパ産生の鍵となるチャネル:内向き整流性カリウムチャネル Kcnj10 が、ニワトリ内耳でも発現していた。これは海外の研究チームによって唱えられた従来の説を覆す結果であり、脊椎動物における聴覚の進化を考えるうえで重要な手がかりとなる可能性がある。 次年度は、得られた結果の検証と並行し、解析対象を他の遺伝子や動物種(軟骨魚類トラザメや条鰭類メダカなど)に拡大して内リンパ産生メカニズムの進化について研究を進展させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、内リンパの電気化学的組成について軟骨魚類や条鰭類を用いた実験を計画していたが、研究代表者の異動や緊急事態宣言の発令により変更を余儀なくされた。一方で、内リンパの産生メカニズムの解析については想定よりも順調に結果を収集できているので、全体としては「概ね順調に進展している」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり脊椎動物における聴覚の進化を考えるうえで重要な手がかりが得られつつあるので、今後は解析対象の遺伝子や動物種を増やし、内リンパについての進化発生学的探索を継続する。
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Causes of Carryover |
当初予定していた内リンパの電気化学的組成についての実験に優先して、産生メカニズムにまつわる遺伝子発現解析を行ったため。また、この遺伝子発現解析については想定よりも滞りなく進展したために結果として消耗品費が抑制されたため。一方で、次年度には内耳の発生過程の形態学的解析を行う予定であり、全体としては当初に計画した予算規模で研究を行う。
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