2021 Fiscal Year Research-status Report
Dissecting the diverse relationship among flowers and flies: attracting flies via exploitation of natural histories of flies
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20K15859
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
望月 昂 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80822775)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ガガイモ亜科 / 送粉 / 双翅目 / 花香 / ガスクロマトグラフィー / 系統樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
双翅目昆虫はもっとも多様な昆虫分類群のひとつであるとされ、植物の花を訪れる主要な昆虫である。ハナバチに次いで多くの植物の送粉者であると考えられている一方で、送粉者としての双翅目昆虫に対し、植物がどのような適応を遂げているかは明らかでない。本研究では、近縁種間で異なる双翅目昆虫に送粉されると予想される植物分類群を対象に、送粉者を明らかにし、花の香り成分との関係性を探索することを目的としている。 2021年度は、2020年度の調査から示唆された、オオカモメヅル(キョウチクトウ科カモメヅル属)およびその近縁種について送粉者と花の匂い成分の調査を行った。オオカモメヅルはタマバエ科昆虫に送粉されることが先行研究から示唆されていたが、今回、タマバエ科昆虫以上に、ヌカカ科の昆虫が送粉に寄与していることが分かった。ヌカカ科は1mm程度の極小の送粉者であるが、粘着トラップを用いた効果的かつ客観的な観察手法を考案し、2020年度から大幅な進捗を得た。オオカモメヅルを送粉するヌカカ科は通常花を訪れることの少ない昆虫であり、被子植物において稀な送粉様式である。これらの進捗については、日本植物学会、植物分類学会にて口頭・ポスター発表を行った。また、花の匂いサンプルの効率的な取得のため、植物の栽培育成を開始した。 さらに、近縁であるコカモメヅルはタマバエ科昆虫に、トキワカモメヅルやイズカモメヅルはもっぱらクロバネキノコバエ科の昆虫に送粉されることが分かった。さらに、絶滅危惧種であるエゾノクサタチバナがアリやオドリバエ、ヒメハナカミキリなど早春の様々な昆虫に送粉されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、野外調査によってさまざまなカモメヅル属の送粉者を観察することができ、オオカモメヅルにおいては、十分な送粉者データを得ることができたため、本研究の大きな二つの柱である送粉者の観察は、おおむね順調に進行している。オオカモメヅルを送粉するヌカカ科昆虫は一般に吸血性の昆虫であり、カカオやタッカなど、ごく限られた植物分類群でのみ報告されている珍しい送粉者である。植物がどのようにしてヌカカ科昆虫を送粉者とするに至ったか、どのように誘引を行っているかは完全に不明であり、良いモデルケースとなる可能性がある。今後、花の匂いや近縁種との比較により迫っていきたい。 このように、送粉者の観察から、カモメヅル属には、通常花を訪れることのない「非好花性昆虫」が頻繁に花を訪れる植物種が存在することが明らかになりつつある。これらの植物が新奇な擬態を行っている可能性が示唆されている。 一方で、花の匂い成分の分析については、前年度に引き続き新型コロナウィルス感染症の影響で他機関へ赴くことができず、サンプルがわずかしか分析できなかったために難航した。しかし、年度の後半で所属機関に分析機器が導入されたため、今後、花香の分析が飛躍的に進展すると期待される。現状、上記の植物の花の匂い分析が進行中である。 カモメヅル属植物において、送粉者のマイナーな転換と花の匂い成分の進化に関する示唆を得るために、サンガー法を用いた塩基配列解読に基づき分子系統解析を行ったが、一部の種は分岐関係が明らかにならなかった。今後、自生代シーケンサーを活用した系統樹の推定が必要だと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、ガスクロマトグラフィー質量分析計と、栽培しているカモメヅル属植物を用いて、花の匂い成分の分析を行うことで、ヌカカ媒のオオカモメヅルやタマバエ媒のコカモメヅル、クロバネキノコバエ媒のトキワカモメヅルなどの間で、花の匂いにどのような違いがあるかを明らかにする。また、特にオオカモメヅルの近縁種群において、送粉者がまだ明らかでない種:タチガシワ、クサナギオゴケ、ツルガシワ、ツルモウリンカの送粉者と花の匂いを明らかにし、進化的背景に対する示唆を得る。一部の種と送粉者については、花香と送粉者の関係性についてさらなる示唆を得るため、GC-EAD法によって送粉者の花香の受容性を明らかにできるよう、実験を計画している。 さらに、サンガー法に基づいた系統推定では分岐しなかった種群については、解像度の高い系統樹推定のため、MIG-seq法を使ったゲノムワイドSNP解析を検討している。
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Research Products
(3 results)